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『さ、さっき授業終わってね、それで残りの時間は交流会みたいな感じらしいから、先帰りますって言って…だから勉強はちゃんとやったよっ』
「えっと…じゃあ」
『あ、あのっ――会いたい。俺、すぐ高瀬くんに会いに行く』
真島が帰ってくる。
今日、会える。
そう知って、ぶわっと鳥肌が立つみたいに全身が震える。
心臓がバクバクいって、ここにアイツはいないのに顔が勝手に熱くなる。
『今もう電車なんだけどね、高瀬くんお祭り行くって言ってたよね。その、終わったらでいいから。俺家の前でずっと待ってるから――』
「分かった。家にいるから気をつけて帰ってこいよ。ちゃんと車来てないか周り確認しろよ」
『――っうん、うん!ちゃんと見るねっ』
信号も見ずに真っ直ぐ突っ走ってきそうで怖いので、一応ちゃんと言っておく。
電話を切ると一度放心するように立ち尽くしてしまう。が、ハッとして友達の元へ戻る。
それから他に何か考える余裕もなく、口を開いた。
「悪い。彼女帰ってくるみたいだから、俺帰るわ」
「えっ」
突然の言葉に驚きの表情が俺に集まる。
せっかくの夏祭りだ。
たぶん真島が帰ってくるまでにはまだ時間もあるだろうし、きっと花火見てから帰っても間に合うだろう。
花火はこれからだってのに、今ここで盛り下がるようなことを言うのは俺としてもなんつー空気の読めなさだとは思う。
それでも可愛い浴衣姿の女の子も、夏祭りの思い出も、あるかもしれないひと夏の何かも、全部今はいらなかった。
アイツが帰ってきた時に、ちゃんと出迎えてやりたい。
待たせるなんて、時間を無駄にしたくない。
女子からも男子からも多少なりともブーイング食らうのかなと思ったが、俺を見る目はどこか呆気にとられたようだった。
え、なんだこの視線。
「…うめのんなんか嬉しそうー」
「ね、そんな風に笑ってるの見たの初めて」
「ほんと好きなんだねー、その彼女」
「もー、この神社全然願い叶わないじゃんー」
「か…可愛い」
口々に茶化された。
なんかさりげなく告白された上に一番最後が男の声だったような気がするが、とりあえずそれは気のせいということにしておく。
こいつら、と思ったが予想外に込み上げる気持ちが、勝手に緩む表情を止められない。
自分でもバカじゃねーの、と思えるほど俺は真島の帰りをずっと待ち侘びていた。
約束してたのに途中で帰ると言う俺に、友人達は寛容に接してくれた。
礼を言って元来た道を戻る。
自然と早まる心臓と比例するように、歩調も早くなっていく。
のんびり歩いて帰ったって真島はまだ着かないだろうし、それなら真島のために祭りの土産でも買っておいてやろうかなと少し屋台を見回す。
と、そこで随分久しぶりな奴を発見した。
「おい」
声を掛けると真っ黒に日焼けしたいかにも夏休み満喫中ですというヒビヤンが、これまた夏祭り満喫中の如く両側に浴衣女子をはべらせていた。
しかもよく見ると二人共外人だ。浴衣の金髪外人美女。一体お前に何があった。
「おー、高瀬だ。ハロー」
イカ焼きをもぐもぐと頬張りながら、ヒビヤンが俺を目に止める。
素晴らしき発音で美女二人に『コンニチハ』と話し掛けられて、とりあえずヒビヤンに乗っかってハローと返す。
美女二人は極上スマイルを俺に振りまいてから、気を使ったように他の屋台を眺めに行った。
「おい。誰だよあの美女二人は。お前に何があった」
「いや?毎年恒例の海の家でバイトしてたら、なんか観光に来てたらしく『ドントルックジャパニーズフェスティバル』みたいな事言ってたから誘ってみた」
すげーコミュ力高いな。夏休み中にグローバル進出してんじゃねーか。
そしてなんだその適当すぎる英語は。
「いやー夏休みマジで最高ですわ。…ってあれ、お前なんかちょっと痩せた?」
七海のごとくガシッと脇腹を掴まれた。
特に抵抗するでもなくじとっとその顔を見上げる。
俺がこんなグダグダな夏休みを送っていた間に、なんつー幸せな奴め。
「ちゃんと飯食えよ。ほら、イカ焼き食うか?」
「食いかけじゃねーか」
「あ、そうだ。それよりそろそろお前に連絡しようと思ってたんだよ」
「どうせ宿題だろ」
先に言ったらニッコリとした含み笑いが帰ってきた。
コイツも変わんねーな。
「真島に俺の宿題やってくれって伝えといて。どうせこれから会うんだろ?」
当たり前のように言われた。
ヒビヤンの中では俺が他の奴と夏祭りに来ているという選択肢はないらしい。
「俺らと違って特進科は忙しいんだよ。俺だってやって貰ってねーのにふざけんな」
「え、マジ。結城も?どうすんだよ俺の宿題」
「知るか」
あっという間に青い顔になったヒビヤンと雑談してたら、花火が打ち上がる音がした。
なんで今年もコイツと花火見なきゃいけねーんだ。
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