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心を空っぽにしたことで、苦しかった気持ちは少し落ち着いた。
残るのは脳内を麻痺させる程の気持ち良さで、ひたすら求めるように真島との長いキスを繰り返す。
塞がれた耳はずっとそのままだったが、やがて密かに一般公開を終える放送が耳に入ってきた。
ようやく離された唇は、腫れてしまったんじゃないかと思えるほどじーんと甘い響きを持っていた。
「…文化祭、終わっちゃうな」
ぼんやりと呟く。
そろそろ実行委員は一旦集まらないといけない時間だろう。
耳を塞いでいた手が開放され、熱い指先が俺の両頬を包み込む。
「高瀬くん。機嫌…直った?」
不安そうな真島にじっと顔を見つめられる。
今さらながらなんだか恥ずかしくなってきた。
「…悪い。機嫌悪かったとかじゃなくて…」
「…お、俺が気持ちを抑えられないのがいけないんだよね」
真島は自分の言葉が俺を苦しめていると思い至ったんだろう。
それはその通りなんだが、きっと真島が思っていることと、俺が思っていることではズレがある。
同じ意味合いでいて、そこに真島への恋愛感情があるかないかで随分変わる。
「…お前と卒業式まで付き合うって言ったのは俺なんだから、変に気にすんな」
そう言ったら、真島がビクリと肩を揺らす。
気にするな、より卒業式まで、という言葉の方に意識を持ってかれたんだろう。
あっという間に青い顔をして俺を抱きしめる。
だが体育館の照明が明るくなって、慌てて俺達は離れると教室へ戻ることにした。
真島はまた後夜祭に迎えにくるからと赤い顔で言って、俺もそれに頷いて一旦別れた。
教室へ戻って片付けをしていると、ヒビヤンが戻ってきた。
「いやー。すげー疲れた」
なんか声が掠れている。
そんなに実行委員の仕事は大変だったんだろうか。
今年は真島が劇をやっていたわけでもないし、そんな声が枯れるほど人整備をするところもなかったように思えるが。
「お前何やってたんだ?」
「え?さっきまで体育館で飛び入りのバンド参加してた」
いや実行委員の仕事しろよ。
と、去年全く仕事をしていない上に真島をサボらせた俺が言うセリフじゃないが。
「え、ちょっと待て。あのへったくそなバンドお前かよ」
「は?高瀬いたの?どこで聞いてたんだ?ヘタクソとか失礼すぎんだろ」
どこにいたかはちょっと言えないが。
ヒビヤンの歌声をBGMに真島とキスしてたとか驚愕の事実なんだが。
というかもしかしてそれに気付いて真島は俺の耳塞いだんじゃねーだろうな。
だとしたらアイツかなり出来る。
ヒビヤンが歌ヘタクソという事実を茶化しながら片付けていると、クラスメイトに「高瀬ー、客人」と呼ばれた。
真島がもう来たのかと顔を向ける。
だがそこにいた予想外の人物に俺は目を見開いた。
「ちょっと顔貸せ」
俺を目に留めると、クイと親指で外を指し示す。
俺と同じ位置に傷バンを貼った貞男が、そこには立っていた。
後夜祭前の片付け時、夕暮れ染まる校舎で忙しなく動く生徒を横目に眺める。
階段を上り貞男に連れて来られた先は屋上だった。
貞男とはあれ以来なんの音沙汰もなければ、真島からも俺と同じような言い訳していたことくらいしか聞いてない。
屋上にはまだ垂れ幕を片す数人の生徒もいて、この時間どこもかしこも人だらけだ。
オレンジに染まる空を視界に入れながら、まだいる生徒とは別方向へと移動する。
貞男はフェンス越しまでいくと金網に手を掛けた。
だが呼び出したくせに、珍しくなかなか口を開かない。
少し待ってみたが、俺は焦れた。
「謝りに来たのか?」
「――なっ。そんなわけねーだろ」
違うらしい。
ならなんだ。また殴り合いでもしようってか。
残念ながらもう殴られる気も殴る気もない。痛いし。
「…奏志に言えなかった」
柔らかな風と共に、ぽつりと呟いた貞男の言葉が耳に届く。
「お前を殴ったことも、言った言葉も後悔はしてない。だけど、奏志に本当の事を言えなかった」
こいつもクソ真面目かよ。
余計なことをわざわざ真島に報告して、荒波を立てる必要はないと思うんだが。
「別に言う必要ねーだろ」
「――ある。俺は奏志の大事な奴を殴ったんだ。それを隠したまま、奏志の隣に並び立つことは出来ない」
「なら俺も真島の大事な奴を殴ってんだけど」
そう言ったら、貞男が顔を振り向かせる。
なんかよくわからんがすげー驚いてるって顔だ。
「…何いってんだ梅乃。奏志の大事な奴はお前だろ」
「はぁ?お前は真島の親友だろ」
「俺はただの友達だ。奏志と近い位置にいるけど、まさか親友だなんて…」
「俺は真島がそう言ってたのを聞いたんだけど」
「――え」
貞男の顔が固まる。
それから一拍置いて、ぶわっと顔が赤くなった。
ああコイツ、本当に真島が好きなんだなとその反応で改めて思い知る。
「…そ、そんなの奏志は一言も…」
「わざわざ親友だって口に出して言う奴もいないんじゃねーの。そんな事俺が知るか」
突き放すように言ったが、貞男は赤い顔でどこか嬉しそうに噛み締めていた。
「…そっか。奏志はそんな風に思ってくれてたのか。そうか――」
儚げにこぼした貞男の顔は驚くほど綺麗で、俺に向けるいつもの表情とは全く違うものだった。
なんだか、気持ちがざわつく。
「でもいいんだ。もう俺決めたから」
貞男は俺に身体を向けると、真っ直ぐに俺を見つめる。
その真っ直ぐな視線はまるで真島みたいで、俺は居心地が悪かった。
「梅乃、お前には言っておく。俺は後夜祭で――奏志に告白する」
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