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俺は教室に戻る道すがら、真島に『怒らないから今すぐ帰ってこい』とメッセを送った。
今度はすぐに返事がきた。
どうやら俺の読みは当たっていたらしい。
どうせ大泣きしていてまともに授業なんか受けられないだろうから、俺も授業サボって屋上で待つことにした。
本当にすぐに帰ってきた真島は、俺が思っていた以上にズタボロだった。
髪の毛に小枝やら葉っぱまでついている。
一体どこまで潜り込んでいるんだ。
「ごめんなさい…ごめん…なさ――」
「別にいいよ。気にしてないから」
いつもの場所で座り込んで待ってた俺に、真島は抱きついてきて崩れ落ちるように俺の膝で大泣きする。
そんなに泣くことかよ、とは思ったが、真島にとってそれがどれほど大切な物かは俺も知っている。
俺は膝の上で大泣きしている真島に人知れず表情を緩めてから、自分の利き手に視線を落とす。
片割れを失ってしまったそれが、どこか寂しそうに風に揺れる。
「俺…っ、あ、あれがないと…っ」
ヒクヒクしゃくりあげながら泣く真島の髪を撫でてやりたかったが、その手を押し留める。
代わりにそっと真島に優しい声音で語りかける。
「ばーか。そんな物別にどうだっていいんだよ。こんなことで授業サボったりするな」
「ど…どうだってよくない…っ。た、高瀬くんだと思って…だ、大事にしてた…っ。す、すごく大事にしてたのに…っ」
「そうだな。お前が大事にしていた事はちゃんと知ってる。大丈夫だよ」
「う…見つからないんだ…。ど、どこにも、どこにもない…っ」
本当に子供みたいだ。
いやいやと頭を振って、もう無くなってしまったものを真島は必死に惜しんでいる。
そう、真島はミサンガを無くしてしまった。
きっとそれに気付いたのが昨日の4限で、それからずっと探していたんだろう。
だが見つからなかった。
まあダメになった時勝手に無くなってくれるようにわざわざ足に付けたんだから、俺としてはちゃんと無くなってくれてホッとしている。
あんな50円の安物、本来なら数週間程度でダメになると思っていたし、半年以上とか逆によく持った方だ。
「ほら、もう泣きやめって」
「嫌だ…っ。絶対に嫌なんだ。俺あれがないとダメで…っ。絶対にあれがないと…」
真島はずっと駄々をこねていた。
おそらく代わりの物がないと、これはもう納得しないだろう。
だが代わりの物を与えるつもりはない。
卒業式まで、あと4ヶ月。
そんな僅かな期間で無くなってくれる物はないし、一度無くした経験を持つ真島はそれこそ大事にしてしまうだろう。
「た…大切だったんだ。本当に本当に…っ、い、一生大切にするつもりだったのに…っ」
「一生ってお前」
「た…高瀬くんが…もしいなくなっても…っ、ミ、ミサンガがあれば…高瀬くんとずっと繋がってられるって…っ」
真島の言葉に、心臓が痛くなる。
俺も真島と同じことを考えていた。
卒業後、これを見れば真島との幸せな記憶がいつでも思い出せる。
真島には悪いが、俺は自分のミサンガは大切に取っておくつもりだ。
俺がミサンガにかけた願いは、ちゃんと届いてくれるだろうか。
卒業後、真島は俺を忘れてちゃんと女の子を好きになってくれるだろうか。
そんな俺の願いなんて全く知る由もない真島は、まだ大泣きしている。
そろそろ泣き止んでくれないと、俺の太腿がいい加減大洪水で漏らしたと思われても困るんだが。
「…しょうがねーな」
俺はそう言うと、一向に泣き止まない真島に顔を上げろと促す。
真島は意地になったように俺の膝に縋り付いていたが「お揃い欲しいんだろ」と言ったらパッと顔をあげた。
コイツこの言葉待ってやがったな。
とはいえ本気でお揃いの物をあげるつもりはない。
それでも仮モノだがお揃いにできるものはある。
そしてそれはずっと残らないものだ。
俺は一つ息を吐き出す。
真島には二度と自分からは触れないと決めていた。
だがこの時だけ。
それだけだと決めて、真島に手を伸ばした。
「…た、たか――」
真島が驚きに目を見開く。
俺は真島のネクタイを解いて、少し襟元を寛げる。
アワアワしている真島の身体を引き寄せて、その鎖骨に口付けた。
「…っ」
ピクリと真島の身体が反応する。
しばらく強く吸い付いてから、唇を離す。
「な、なに…」
「ほら、お前も付けて。お揃い欲しいんだろ」
「――あ」
真島の肌にくっきりと残った痣を指でなぞる。
これならお揃いにできて、ずっと残らない。
俺の言葉の意図を察したように、真島もおずおずと俺に手を伸ばした。
愛おしむように何度も首筋に口付けられてから、その唇が鎖骨へと滑り落ちる。
「ごめんね。高瀬くんの身体に少し傷を付けるね」
「…おー」
たった一つ痣を残す程度で、そんな大袈裟な。
とは思うが真島が俺をどれほど大切に扱ってくれているかが伝わってきて、自然と表情が緩んでしまう。
ピリッとした痛みと同時に、胸が震えるような愛しさがこみ上げる。
残念ながら自分じゃ見えないが、真っ赤な顔で惚けたように俺の鎖骨を撫でる真島の反応からして、それはちゃんと付いたんだろう。
「…また消えたらいくらでも付けてやるから。とりあえずこれで納得しとけ」
「――うん。ありがとう」
ミサンガの代わりとまではいかないが、それでも同じ箇所に付いたお揃いのキスマーク。
ようやく涙が止まったらしい真島は、グスリと鼻を啜ってから俺に愛おしげな微笑みを向けた。
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