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「高瀬くん、桜が咲き始めたよ」
「…おー」
今日も朝っぱらから俺の家に来た真島が、ニコニコと俺に笑顔を向ける。
「高瀬くん、見て、ここのお店今日オープンなんだって。あとで一緒に行こう」
「…おー」
高瀬くん、高瀬くんと真島は俺を呼ぶ。
だけど俺はもうなるべく心を無心にして、なんとか整理をつけようとしていた。
真島と離れることへの痛みや苦しみや恐怖が、日に日に大きくなっていく。
それはもう俺の中で耐えきれないほど大きく、いっそ早く卒業式を終えて楽になりたいと思うほどだった。
「高瀬くん、今日は何を食べたい?高瀬くんが大好きなもの、なんでも言ってね」
慈しむように真島の指先が俺の頬を撫でる。
もう俺には、真島が何を考えているのか本気で分からなくなってしまった。
コイツは覚悟を出来ているんだろうか。
それで最後の時を精一杯楽しんでいるんだろうか。
何一ついつもと変わらず俺に愛情を注ぐ真島は、ひたすらに余裕に見えて、ただのイケメンだった。
「高瀬くん、大好き。本当に…大好き。俺ね、すごく幸せなんだよ」
俺も幸せだと思いたい。
最後まで楽しみたい。
残りの数日を、真島と一緒にいれる喜びをたくさん噛み締めたい。
だけどもう苦しくて、何も楽しめない。
つい数日前まで苦しくても、怖くても、それでも幸せだった。
隣りにいることが、なにより愛しくて嬉しくて堪らなかったのに。
でもここに来て、一気に恐怖心だけになってしまった。
顔に出さないように、泣いてしまわないように、必死に取り繕う。
ずっとここまで耐えてきたんだ。
最後の日を終えるまで、決して自分を崩してはいけない。
何度もシミュレーションしていた。
何度も、何度も。
真島に告げなければいけない言葉を、ちゃんと言えるように。
卒業式、二日前。
桜が綺麗だった。
テレビの開花予想はまだ先とのことだったのに、今日の暖かい気候であっという間に咲き乱れていた。
マンションに一本だけある桜の木を、酷く冷たい心で見下ろす。
どんなドラマや小説でも、桜を貶める言葉なんて中々聞きやしない。
春が最悪でクソみたいな季節だなんて、そんな酷い事を思っているのはきっと俺くらいだ。
「…高瀬くん、触りたい。お願い、触らせて」
真島にせがまれて、黙って俺も受け入れる。
その背に自ら手を回して、しっかりと感触を確かめる。
真島に自分から触らない、なんてそんな覚悟の仕方はもうなかった。
今になって分かったが、そんなものは全く意味がなかった。
それくらいで忘れられるなら、今こんな気持ちになっていない。
今頃になってもう遅いが、だったらたくさん触っていればよかったな、なんて少し後悔すらある。
「高瀬くん、消えてきちゃった。ね、つけて」
たくさん抱き合ってキスした後、真島にそうせがまれる。
真島の鎖骨に刻まれたうっすらとした痣を目にして、そっと指でなぞる。
――愛しい。
真島が、愛しくて堪らない。
コイツは俺のものだ。
誰にもやったりしない。
誰にも触らせたりしたくない。
ずっと、俺のものだったんだ。
そう思いながらも、俺はなんとか真島を突き放す。
「…キスマークは、もう終わりだ」
ここから先は、卒業後も跡が残る。
少しでも早く俺のことを忘れて欲しい。
この先真島の人生に何の意味もない自分の存在を、早く忘れて欲しい。
一分でも、一秒でも早く真島が俺を忘れてくれるように。
こんな恋愛はきっと、真島の中でも最初で最後でいい。
「――嫌だ。嫌だっ」
突然無理矢理手を取られて、壁に押し付けられた。
有無を言わせぬ力で首筋に吸い付かれて、何度も何度も吸い上げられる。
こんな乱暴な真島は見たことがなかった。
俺のものだ、俺のなんだと全身で言われている気がした。
二度と消えない跡を、付けられている気がした。
一箇所だけじゃなく、たくさん真島の物である証を身体中に刻み込まれる。
少しだって俺の体に傷をつける事を戸惑っていた真島が、俺を組み敷いて際限なく体に口付ける。
さすがにここまできて真島も、取り繕っていたものが剥がれたんだろう。
今まで我慢してきたものが堰を切ったように、たくさんの愛の言葉を押し付けられる。
それでも俺の心はもう揺らがない。
苦しい。もう、耐えきれない。
早く。
早く卒業式に。
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