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性格の全く違う奴らが5人集まるとそれなりに賑やかで、なんだかんだ話してたら時間はあっという間だった。
奏志とヒビヤンは俺の家に泊まるし、他二人も来るかと誘ってみたが七海は明日も部活があるらしい。
相変わらず運動部の学生って休みねーな。
「俺も帰国したばかりだから家族待ってるし…でももう少し奏志と一緒にいたいなあ」
「ふふ、ありがとう。それじゃあユキの家まで送っていくよ」
「えー!ずるいっすよ。なら真島先輩俺も家まで送って下さいっ」
「なら俺も北海道まで送ってもらうかな」
全く意味の分からないゴネ方を七海がしている。
そしてヒビヤンも面白がって便乗すんな。話がややこしくなる。
というかお前ら男が男を送るという発想をまずなんとかしろ。
ツッコミが全く追いつかないままファミレスを出ると、もう空のオレンジはほとんど沈み込んでいて群青色の薄闇が掛かっていた。
ヒビヤンが貞男と奏志をからかう様子を見ながら駅までの道を歩いていると、七海が俺の隣で歩調を合わせてきた。
ニコニコと上機嫌に見つめられて、なんなんだと見上げる。
「高瀬先輩、聞いて下さいよ。俺ついに運命の人見つけちゃいました」
「へー、被害者がまた増えたのか」
どこのどいつだか知らないが、変態の餌食になる奴がまた現れたらしい。
とはいえコイツはそこまで悪い奴じゃないし、多少というかかなり変態だがよろしくやってくれたらいいんじゃねーかなと呑気に考える。
「高瀬先輩ノンケじゃないっすか。どうやって真島先輩に落とされたんすか?やっぱり身体っすか?真島先輩てチンコでかそーですもん――」
「おいこら通報すんぞ変態」
そう返したが、七海は真剣な顔で腕を組んでいる。
「違うならやっぱり顔ですか」
「お前には性格という選択肢はねーのかよ」
「あー!確かに真島先輩、落ち着いてて格好いいですもんね」
年中無休で鼻息荒く大興奮している奴のどこが落ち着いているのか分からないが、俺だってコイツのどこが好きなのかと言われると分からない。
まあ顔だけじゃ男は好きにならないから、やっぱり性格ということになるんだろうが。
「ま、良かったな。お前の運命の人が見つかって」
運命にこだわりがあるのか知らないが、こんな言葉をわざわざチョイスするコイツが真っ直ぐな奴なのは分かる。
応援してるから絶対離すなよ、とニッコリ笑顔で返してやると嬉しそうに頷いていた。
これで俺への被害はもうないだろう。
七海と別れて、最終的になぜか貞男を家まで送る役を任命されたのは俺だった。
どうしてこうなった。
奏志が送っていくと言い始めたんじゃねーのか。
そもそも男なんだから一人で帰れ。
が、俺に送ってほしいと言ったのは貞男で、忘れていたがゲーセンで負けた事を引き換えにだされては断れない。
どうやら俺と二人で話がしたいらしい。
「う、梅乃くんが心配だからやっぱり俺も…」
「うるせー。ヒビヤンと帰って飯でも作ってろ」
「真島、俺ハンバーグ食いたい」
奏志はかなり名残惜しげだったが、ちゃっかりリクエストしてるヒビヤンにズルズルと引っ張られて行った。
こういうところ察しの早いヒビヤンは助かる。
貞男の家がどこなのか知らないが、足の向くままに隣を歩く。
落ちきりそうな太陽と伸び切った影が足元に落ちている。
しばらく無言で歩いていたが、ぽつりと貞男が口を開いた。
「卒業式に別れなかったことは、奏志に聞いた」
「…おー」
俺と会って開口一番に言われた言葉が「嘘つき野郎」だったから、そうだとは思ってた。
まあ実際別れていたら今回会おうとなることもなかっただろう。
「…奏志が今日本当に幸せそうだったから…安心した気持ちもある」
貞男はそう言ってから、隣を歩く俺へ視線を向けた。
相変わらず意志の強そうな視線は、前と何一つ変わらない。
「でも俺は納得出来ない」
「――は?」
きっぱりと言われた。
まあ確かに、貞男には何度も別れると言いながら結局奏志と付き合っている。
こんなフラついた考えの奴が相手じゃ、真っ直ぐに奏志を思い続けてきた貞男はやっぱり納得出来ないだろう。
「…まあ今まで散々別れるって言ってきたししょうがねーな」
「そうじゃねーよ。俺はいまだにお前の口から、まともに奏志の事が好きだと聞いてない」
そう言われて、少し驚く。
そうだったっけ。
「お前はいつだってはぐらかしてばっかりだ。卒業式のことだって奏志からは聞いたけど、お前からは何も言われてねーし…。俺達は男と男の約束を交わした仲だったんじゃねーのか」
あったな、そういえばそんなの。
貞男が好きそうだから選んだ言葉だったが、見事にドハマリしてんじゃねーか。
謎の熱い友情とか俺達の間にいらねーんだよ。
「お前が適当で最低野郎なのは知っている。でもそれだけじゃないのも知ってる。お前の今の気持ちが知りたい」
相変わらず奏志のことになると余裕が無い奴だ。
ここを適当な言葉でかわすことは勿論出来る。
茶化して終わらせることも俺には出来る。
――だけど。
初夏の優しく暖かい空気を吸い込む。
周りは閑静な住宅街で、この時間晩メシの匂いが漂ってくる他、人気は特になかった。
「…俺はアイツが好きだよ」
俺の言葉に、貞男が目を見開く。
いや、こんな言葉だけじゃコイツに申し訳ない。
一つ息を吐き出してから、ちゃんと向き直った。
「俺はアイツが好きで…俺にはアイツしかいないんだ。これから先も、俺の気持ちは変わらない。絶対に大事にするし、これから先もアイツしか見ない。だから奏志の親友であるお前にも俺達のことを認めて欲しい」
俺はそう言って、貞男に頭を下げた。
奏志の大事な奴で、親友じゃなきゃ絶対にこんなことはしない。
別に奏志を好きな奴なんて大勢いる。
貞男がただ奏志を好きな奴だけだったらここまでは言わない。
俺は誰に奏志とのことを認めてもらわなくたって構わないと思っている。
だけど貞男は、奏志の親友だから。
奏志の特別な奴だから。
「…梅乃」
瞬く青い瞳が仄かに揺れる。
どこか淋しげで、だがずっとその言葉を聞きたかったというように、満足そうに口端が緩められる。
「…認めてやる。認めてやるから…っ。だからどうか、俺の本当に大事な親友を…。幸せにしてやってくれ」
そう言って貞男も俺に頭を下げる。
それから俺に今までに見せたこともないような笑顔を向けた。
貞男に笑顔を向けられたのは初めてかもしれない。
元々美人なヤツの笑顔はそれはもうハッとするような表情で、あろうことか俺は一瞬見惚れてしまった。
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