アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
5
-
応接室で進行の打ち合わせをした後、すぐに体育館で説明会が始まる。
もっと和やかな雰囲気で話すのかと思ったら予想以上に厳正な雰囲気で、なんで俺来たんだっけと場違い感がやばい。
奏志がいるって聞いたからまあいいかと思って来てみたけど、俺や奏志以外の卒業生も公務員だったり若社長だったり弁護士だったりとめちゃくちゃ優秀すぎる。
本気でなんでここに俺がいるのか疑問になってきた。
「梅乃くん、大丈夫?」
コソッと奏志に耳打ちされる。
奏志もどこか俺の顔をチラチラソワソワして落ち着いてないが、こいつの場合緊張している対象は俺であって説明会ではない。
体育館の壇上に卒業生の席を設け、真ん中に置かれた演台で教師が進路指導の説明をしている。
それが終わると一人ずつ演台で話す形になる。
とはいえ俺もそう不器用な方でもないし、就職の時の体験を思い出してそれなりに話す。
思ってたより教師がフォローしてくれた事もあって、変に噛んだりもせず何事もなく話し終えた。
ホッとして席に戻ると、興奮した顔の奏志と目が合う。
「う、梅乃くんすごくかっこよかった…っ。動画取りたかったなぁ」
子供の運動会じゃねーんだよ。
とはいえ褒められれば悪い気はしない。
「お前の助けいらなかったな」
「うんっ。やっぱり梅乃くんはすごいなぁ」
「はいはい。お前の方こそ頑張れよ」
いらない心配だろうがテキトーにそう言ってやったら、王様に勅命を受けた騎士の如くキリッとした顔で頷いていた。
唖然としてしまった。
奏志の進学に関しての演説は、もはやどこぞの大学教授の演説ばりに完璧だった。
淀み無く真っ直ぐに前を見てハキハキと喋る姿勢に、誰もがハッとしたように聞き入っている。
もう今日はお前の講演会かよってレベルで観衆が魅了されている。
奏志じゃないみたいだった。
さっき数学教師と話している時も思ったことだが、コイツはやっぱり凄い。
こういう姿を見る度に、なんでコイツは俺が好きなんだろうと思ってしまう。
アイツの普段の態度で忘れがちだが、俺だけは絶対に忘れちゃいけなかった。
アイツが凄いやつだということ。
あんな優秀な奴を俺が縛っていること。
俺が奏志の当たり前にある未来を奪ってしまっていること――。
自分を悲観して考えてるつもりはないが、こんな姿を見せられると奏志が俺と一緒にいるのがどれほど勿体無い事なんだって思い知らされる。
最近は二人でいることが多かったから忘れてたが、そりゃ高校の時にあれだけ思い悩むわけだ。
演説を終え何事もなかったように奏志が涼しい顔で席へ戻ってくる。
あまりに堂々とした態度と完璧な演説に、なんだか他人を見ているような気持ちだった。
なんとなく声が掛けづらくて、視線を前に戻す。
説明会が終わって、飯でも食って帰るかと机の上の書類を片付ける。
気付いたら奏志はまた数学教師と話していて、俺の分からん小難しい話でもしてんのかなと目を細める。
が、すぐに戻ってきた奏志は俺を見ると、興奮したように赤い顔で口を開いた。
「梅乃くんっ。あのね…っ、見ていいって…あっ、じゃなくて今聞いてね、それで屋上が…じゃなくて一緒がよくって――」
なるほど。
帰る前に学校内を少し見ていいか数学教師に聞いてきて、許可を取ったから一緒に屋上へ行こう、と言いたいらしい。
あれだけ素晴らしい演説をしていたくせになんで俺に対しての日本語はいつも下手なんだ。
「いいよ。行こう」
そう言ってやったら満面の笑顔でギュッと手を握られた。
説明会が終わったとはいえまだ生徒は体育館から出て行ってる途中で、一応人前なんだが。
それでも本当に嬉しそうに俺を引っ張るから、なんとなく気が抜ける。
さっき思ってしまったことはもう何度も去年思ったことで、俺はそれを乗り越えてコイツといようと決めたはずだ。
今更俺は何グダグダ考えてんだ。
「はぁ…梅乃くんと一番一緒に過ごした場所だよね。どうしよう…き、緊張してきちゃった…」
胸に手を当てて今頃無駄に緊張しているイケメンは、俺の気持ちなんてきっと一生分からないんだろう。
やっぱりただの奏志だ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
245 / 251