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心の内 1
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日曜日の午後。
美容師の律兄ちゃんは仕事で居なくて、その日は僕も予定がなかったから家でのんびり過ごしていた。
ピンポーン
チャイムが聞こえて、ドアフォンを覗くと愛美さんが立っていた。一瞬息が詰まってバクバクと鼓動が早くなる。
居留守を使う事も出来たのかもしれないが、ずっと逃げたままにもいかない。
ゆっくり息を吸い、ゆっくり吐き出す。そしてボタンを押して返事をした。
話があるから、と言う愛美さんを中へ通すと2人掛けのダイニングに座ってもらう。何か飲みますか、と問いかけると冷たいお茶がいいと言われグラスに入れる、僕も同じ物を用意すると愛美さんに向かい合って座った。
頂きます、と言ってお茶を飲む愛美さんを恐る恐ると見つめると変わらず綺麗で女性らしい顔立ちと艶やかに伸びた黒髪が彼女の美しさを際立たせている。ただ、少しばかり顔に疲れが見られもしたが、それでも彼女の左指に嵌められた指輪が彼女の幸せの象徴として僕の心に突き刺さる。
コクコクとお茶を半分ほど飲んだ愛美さんがグラスをテーブルに置き、そのままポツリポツリと話し出す。
正兄ちゃんとは大学に入ってすぐからの友人だったと。
外見は勿論だけど、正兄ちゃんの優しい人柄に惹かれていった、そして大学3年の時、両親がなくなって、大学の事、これからの事で落ち込んだり悩んでる正兄ちゃんを助けてあげたい、自分が正兄ちゃんの支えになりたいって思ったと。そして、2人は付き合うようになった。
幸せだったと。無口だったけど、弟の話をする時は楽しそうに良く喋ったそうだ。自分も、そんな弟に会ってみたいと言ったら人見知りだから、もう少ししたら、と言われたと。
付き合って3年たっても、弟の話はしても合わせてはくれないし、家にも呼んでくれない。不安になって自分を好きじゃないのかと聞けば、そんな事はないと。
優しかったし、愛美さんの我儘も笑顔で応えてくれて、幸せなはずなのに不安だった。
だから、あの日、携帯を口実に家に来たそうだ。
「あの日、雫君に会って貴方が正の事を兄弟以上に想ってる事、直ぐにわかったのよ。女はそういう事に敏感だから。
それがいけなかったの。余計、私の中で不安が膨らんでいって、正が自分から離れて行きそうで怖かった。
だから、結婚を迫ったの。私にとっては一世一代の勝負。
これで断られれば正と別れて死のうと。」
「えっ?!」
今まで黙って聞いていた僕も思わず声が出たほどに愛美さんの言った言葉が信じられなかった。
「ふふっ、それくらい危機迫ってたのよ。…一世一代の勝負と言っても、あの時の私は断られると思ってたから勝負にもならないわね…でも、正は受け入れてくれた。」
愛美さんが幸せそうに笑った。
愛美さんの笑顔は何度も見て来たけど、こんなに綺麗な笑顔は初めてだった。
「あぁ、これで幸せになれる。不安はなくなるって思った。……でも、その不安は恐怖に変わっていったわ。雫君と一緒に住む事で自分の監視下に置いた。でも、家の中での2人の姿に恐怖と憎悪が募って、それを雫君にぶつけた。そうする事で雫君が正の気持ちを諦めるんじゃないかって思い込んでた。」
愛美さんの言葉に背筋が凍った。
まさか、そこまでの想いがあったとは知らなかったから。
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