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僕が小学生になると、お兄ちゃんと同じ学校に行った。
毎日、お兄ちゃんの分の手提げも持って、もうかたほうで手をつなぐ。
朝は妹たちがぐずるから、毎日送り迎えするお母さんの代わりになった。
「アキくんは優しいのね」
先生に言われて僕はうれしかった。認められているような気がしてた。
1年生の誕生日。戦隊もののデコレーションケーキをおねだりしていた。
誕生日は、僕が主役になれる日だからずっと楽しみにしてた。
でも、お兄ちゃんは風邪をこじらせて肺炎になってしまった。
「ごめんな、お兄ちゃんの病院に行ってあげないといけなくて…」
申し訳なさそうに謝るお父さんは見たくなかった。
「いいよ、僕甘いの好きじゃないもん、大丈夫だよ」
そう言ったら、ほっとした顔してお父さんはケーキ屋さんに取り消しの電話を掛けた。
家族みんなで泊まることとかはできないから、僕は見たいテレビがあると言い張って家に残った。「アキなら大丈夫だもんね」と笑顔を浮かべて頭をなでるお母さんの顔は見れなかった。
毎日持ち歩いていたケーキ屋さんのチラシをみながら、ひとりでふりかけご飯を食べる。よく味がわからなかった。
その次の年は妹と弟がダブルで流行り風邪をもらってきて、また僕はひとりだった。
期待した分、それが悲しくて。
でも、それ以上に両親が申し訳なさそうにするのが苦しくて。
「僕、誕生日は友達と遊びに行くからケーキとかいらない!」
次の年からはそううそをついた。
ケーキの好きな妹は、「アキお兄ちゃんの誕生日はけーきないからきらい!」とすねたけれど、ごめんね、と謝ることしかできなかった。
学校では、定期的に全学年での交流会があった。
そのときも、僕は真っ先にお兄ちゃんのところに行った。お兄ちゃんはやさしいし、どこか人に愛される人だからいつもクラスのみんなに囲まれていた。
僕は学校のみんなから、体の弱いお兄ちゃんをいつも助けてる子として見られていたから、お兄ちゃんのところにまっすぐ行かないと
「おい、おまえのにいちゃんあっちで待ってるぞ」と声をかけられた。
たまたま、ペアをつくりましょう、といわれたことがあった。
その時、クラスの女の子にペアになろう、と声をかけられた。
僕がずっと気になっていた子だったから、すごくうれしくてうなずいて。
お兄ちゃんのことはクラスの人たちもいるし大丈夫だろうと思ってそのこと交流会をすごした。
20分後、いきなり担任の先生に呼ばれた僕は保健室に連れていかれた。
そこには、ひざこぞうから血を流して泣いているお兄ちゃんの姿があった。
運動の得意でないおにいちゃんは、クラスの子とペアを組んでうまくいかずに転んでしまったのだと言われた。
それから、お兄ちゃんはお母さんが迎えに来て早退するとも。
お兄ちゃんとペアを組んだ子は、涙目で僕をにらんだ。
「おまえが兄ちゃんと組んでればよかったのに!」
そういわれたとき、ガンと頭を殴られた気分だった。だって、僕だって好きな子と組んだっていいじゃないかと思ってたのに。
先生は僕を叱ったりはしなかったけど、「お兄ちゃんは体が弱いから、アキくんももう少ししっかり見てあげてね」といわれた。
「うちの子がけがをしたって…!」
慌てて飛び込んできたお母さんは、血が付いた服を見て動揺したように僕の方を振り返った。
「アキ、どうしてお兄ちゃんけがしたの?」
「え…」
「アキ、私アキならお兄ちゃんを任せて大丈夫だって思ってたのに…」
その時に心の中に渦巻いた感情はよくわからない。
ただ、僕はお兄ちゃんをみていることをみんなが求めているのだということだけが頭の中にしみこんでいった。
「ごめん…なさい」
小さくつぶやいたけど、お母さんはそれ以上僕の方を見ることはなかった。
どうしようもなく泣きたくて、でも僕は泣いてはだめだとおもってすっとうつむいた。そっと保健室の先生が頭をなでてくれて、今にもわけのわからない気持ちに支配されそうだった。
家に帰ってから、僕は両親に1時間諭された。
「なぁ、アキ頼むから…」
はぁ、とため息交じりに眉間にしわを寄せたお父さんは、ひどく疲れた顔をしていた。
「もうこんなことないわよね、アキ」
「アキお兄ちゃんがはじめお兄ちゃんにけがさせたの?」
「はじめお兄ちゃんいたそうだった・・・」
まるで罪人になったような気持ちで、僕は小さく答えた。
「大丈夫…つぎからはお兄ちゃんのことちゃんとみるから…」
「そうそう、おまえはやっぱりいい子だよ」
優しい笑顔でお父さんに言われても、僕は前みたいにうれしい気持ちにはなれなかった。
うん、ちゃんとお兄ちゃんの面倒みなくちゃ。
僕はいいこで、一人でうまくやれる子だから…
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