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決別
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*無理やり描写あり
「あっ…ぅ…」
なんで、こんなことになってるんだっけ。
「はじめ…はじめっ」
「あっあっ…や…」
慣らされてもいない後ろから嫌な水音がする。
いたい、いたい…
「もっやめ…」
数回だけの行為は、どれも痛みもあったけれどこんなにつらくなかったのに。
「ごめん…はじめ…愛してる」
自分の名前を呼ぶことのない元恋人は、自分の快楽を追うためだけに腰を動かした。
まるで自分は人形だ。
部活から門限ぎりぎりの時間に部屋に戻ると、そこに兄さんはいなかった。熱を出してしまったので先生が病院へ連れて行ったらしい。
原因は、健斗と体をつなげたこと。
体の丈夫な人でも体には負担がかかる行為は、兄さんにはきついものだったのだろう。
帰ってきた健斗は、半ば八つ当たりで僕を抱いた。
「なんで元は体が弱いんだ……!アキみたいに強ければ…抱くたびに苦しませたくないんだ……」
兄と元恋人の性事情なんて知りたくもない。
いくら僕でも、慣らされもしなければこうやっていたいし血も出るってどうしてまだ気づかないんだろう。
「アキ…お前は大丈夫なんてずるいよな。元が健康だったらよかった……」
逃げを打つ体を引き寄せられてまた激痛が走る。
「元……愛してる…」
「ひっもう…健斗ぉ…」
いたい。目からこぼれた涙が、生理的なものなのか感情からくるものなのかもわからない。
「くっ…そろそろ…」
ひときわ強く腰をつかまれて、無意識に逃げようとする体を押さえつけられる。
体の中に熱いものを感じて、彼が果てたのだと分かった。
健斗は僕から離れて、また兄さんの名前を呼んだ。
僕はそれをもうろうとする意識の中で見つめていた。
ああ、終わったんだ…
ガチャ
急にカギの回された音がして、異様だった空間が現実に引き戻される。
「ただい…健斗…?」
思っていたよりは顔色の良い兄さんは、呆然とした目でこちらを見ていた。
健斗は驚いたような顔をして、それから真っ青になった。
「はじめっ、大丈夫だったのか?」
「け、健斗、なに、これ…」
動揺している兄さんを、はじめはきつく抱きしめた。
そのそばで僕は痛む体を無理やり起こす。
「ごめん、ごめん…俺、はじめを抱くたびに体調悪くさせたらって思って…俺…はじめのこと愛してるから…」
「愛してるから?それなのにアキと…」
言葉を詰まらせた兄さん。
「ちがうっ!アキのことは好きなんかじゃない!でも、はじめとはシなくても幸せになるにはどうしたらいいかって考えてたらアキが…」
その言葉に、兄さんはようやく僕を見た。
ぼんやりと兄さんの目をとらえると、その瞳に今まで見たことのない憎悪がはためいていて、冷水を頭からかぶせられた気分になった。
なに?健斗は何を言ったの?
「アキ…もうアキは健斗の恋人じゃないのに…おれが、体が弱いからって健斗の体は自分のものにしようと…」
「…ちがう」
「なにが?アキのことは健斗はもう好きじゃないって言ってるのに!今やってたのはそういうことでしょ!」
ちがう、健斗が僕が帰ってきたときに何を考えてたのかなんて知らないけど、僕はそんなむなしいことしたくない。
健斗が、自分の欲をぶつける相手を探さなきゃって思ってたのかもしれない。
僕なら…僕なら、その気持ちを汲んでくれると…
ああ、馬鹿な男を好きになったなぁ…
兄さんのことは気遣うのに、その弟にレイプまがいのことをして。
裏切られたことなんてない兄さんに、ひどい姿を見せちゃってさ。
「はじめ…俺は本気で元を愛してるんだ…アキとはもう近づかない…だから、もう一回だけ…」
泣きそうな健斗の声。浮気男のすがり方そのものだ。
「…そんなの信じられないよっ」
あぁ、兄さんはもう泣いてるじゃないか。
健斗はまたきつく兄さんを抱きしめたかと思うと、今度は兄さんに深いキスをした。
「キスをしたいと思うのは元だけだ…アキとシてても、元のことしか考えてなくて…」
くだらないワンシーンの戯言一つにこころがずきずきするのはなんでだろう。
はぎ取られた服をぎこちない動きで着ると、後ろの痛みに顔がこわばった。
そんな僕を、今度は二人で見てくる。
健斗は一瞬罪悪感をうつしたが、兄さんは汚らわしいものを見る目をしていた。
「どうしたの?お好きにやればいいでしょ」
自嘲的な響きが口からこぼれて、自分でもびっくりした。
兄さんは涙をこぼしたまま僕に近づいた。
「…なにっ」
自分でもきつい言い方になったな、と思った瞬間、頬を走った痛みに呆然とする。いま、兄さんは僕をたたいたのか。
「出てって!健斗に近づかないで!アキがこんなことするなんて思ってなかった」
ちらっと健斗を見ると、健斗はもうこちらと目を合わせようとはしなかった。
健斗は調子のいいところはあるけど、こういうときに逃げるタイプだったなんて知りたくもなかった。
だんだんと頭の中がごちゃごちゃしてきて、泣きたいんだか起こりたいんだかわからなくなってきた。
「もう、いいよ」
はっきり言ったつもりだったのに、思いのほか声は小さくて震えていた。兄さんはぐっと僕をにらみつけた。
大丈夫でしょう、兄さんも。
兄さんのためならほかに犠牲を出すこともいとわない彼氏がいるんだから。犠牲にされたこっちはたまったもんじゃないけど、でもいいよ。
「僕は大丈夫だから、もういいよ。出ていくから、あとはお好きにどうぞ」
「アキっ!」
あまり大声を出さない兄さんの僕を呼ぶ声はひっくり返っていた。
こんなに大きな声を聴くのはいつぶりだろう?まさか自分を責める声になるなんて想像もしてなかったのに。
痛む体を引きずって、扉に向かう。
荷物も何も持ってない。どこに行く当てもないけど、とにかく立ち去りたかった。
すれ違いざま、健斗はもの言いたげな顔をしていたけど、結局口を開くことはなかった。
大丈夫。
兄さんは学校のみんなも気にしてるから、何かあっても大丈夫。
僕も、きっと大丈夫。
この痛みが消えるころには、きっと大丈夫。
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