アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
きらいなもの
-
side:英人
「名前が嫌い、ですか」
落ち着いた校長の声が保健室に響く。すこし熱の上がったアキをベッドに戻すと先ほど流した涙が枕に染み込んだ。
「すみません、私が無理をさせてしまった」
困ったように笑う校長。でも校長に触れられている時アキは拒否反応を示さなかった。
なんとなく飼い犬が客の方に懐いたような可愛いのに切ないと言うかムッとした気持ちにはなる。それでも校長は陽だまりのような人だから、アキの気持ちもわかる。
「いえ、あまり寝たくなさそうだったのに校長と話してたら寝てくれました」
「ふふ、寝たくないと愚図る子を寝かせるのは子供も孫もいるから得意なんです」
ああ、そういえばアキと同じ年の孫がいるんだっけ。自分の子供と重ねていたのだろうか。
「それにしてもちょっと頑固というか根は深そうですね」
「ええ…目を離したら逃げそうだし…それに周りの環境があまり良くない」
アキの鞄が目に入る。わざわざアキがビニール袋を取り出してみせたとは思えない。
教員の間でも、アキの噂に対する解釈は人それぞれなのだ。中にはあからさまにアキを嫌悪する教師がいることももちろんわかっている。
「いいお友達はいますけどねえ」
「一歩引いてしまう子ですから、中々胸の内を明かす付き合いは勇気がでないんでしょう」
真奈美から聞いたアキの話。
小学生の頃から、アキの友人と元の味方はイコールで結ばれていたようだ。
「時には恋人にすら言いにくいこともあるでしょうしね」
アキに何があったのかはまだ聞かない。
それは校長とも話したことだ。いまは、思春期の兄弟喧嘩だと思ってると思われていていい。
なんでも話してほしいというのは、多分エゴだ。
話せば解決してやれるなんて思うことすら。
何かの手は打てるだろう。大人はルールを知っているから、それをうまく利用することもできる。アキの荷物を没収したように。
だけどアキの心を踏みにじるかもしれない。
何を肯定して欲しくて、何を一緒に悲しんで欲しいのかを知らないで踏み込んで行くのはあまりにも無責任だろう。
「しばらくはよろしくお願いしますね」
「ええ、任せてください」
ただ、安心して寝られる場所でありたい。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
43 / 155