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決別の言葉
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「アキ?その子の部屋に泊まってるの?」
なんで、兄さんがここにいるんだろう。
「あれ?アキのお兄さん?」
有紀の声が遠く聞こえる。
「アキ?黙ってたらわからないよ。この子をお前のわがままに付き合わせてるの?」
兄さんの声は厳しい。
いままでそんな声ほとんど聞いたことなかったのに。
おなかの中がぐるぐるとしてる。先生がせっかく作ってくれた弁当も、ぐるぐるしてて今にも吐きそう。
「あ、僕…」
何か答えなきゃ、そう思うのに声がかすれてうまく出ない。
有紀はそんな僕をどう思ったのか、まるで守るように僕と兄さんの間に立った。
「僕のところに泊まってたらダメですか?」
「だって、泊まったりしたら君も違反者扱いなんだよ」
「…お兄さんはアキがどこに泊まってたか知らないんですよね?」
兄さんはむっとした顔で有紀を見た。「それは…」
「どうして知らないんですか?こないだの雨の日心配じゃなかったんですか?昨日アキ体調崩して早退したんですよ?」
兄さんはちょっと驚いた顔をしてこちらを見た。僕が体調を崩すのは本当に珍しいから当たり前だと思うけれど。
「兄なのに弟のこと知らないで家でぬくぬく彼氏とイチャイチャとかなんなんですか?こっちもこれから勉強会なんで帰ってくれません?」
ここまで有紀が強気に言うのはあまりない。
まして有紀は僕が兄さんを大事だって知ってるから、それなりに丁寧であろうとするだろうに。二人が大げんかとかしてしまったらどうしようと思うと心臓がバクバクする。
「…大きなお世話だよ。兄弟でのことに他人が口挟まないで」
「他人にあらぬ噂立てられまくっておいてそっちには何も言わないで僕に言うわけ?」
あらぬ噂。
その言葉に兄さんの顔がゆがむ。あの日のように。
「へぇ、君はアキが何もしてないと思ってるわけ」
「彼氏先に寝取ったのはお前でしょ?僕はアキのこと信じてるから。さっさと帰れよ」
彼氏を寝取ったという言葉にいよいよ兄さんは怒ったようだった。
「は?寝取ったのはそっちだろ」
「何言ってるの?先に付き合ってたのはアキじゃん。まあいいよ、別に。アキにはもっといい男がいるから勝手にイチャイチャしてろよ」
有紀がもう話すことはないというように僕の腕を引っ張った。
「あ…」
せめて何か言わないと。
わざわざ、僕のところにこようとしてくれただけですごくうれしかったんだと。ひどいことをしてしまって申し訳ないと、謝らないと。
震えながら兄さんの方を向いても、兄さんはこちらを見ない。
ただ、じっと有紀をにらみつけている。
「ごめ、ごめんなさ…」
早口でそれだけ言って、有紀に引っ張られるようにして部屋に入れられる。
「もう二度と兄弟なんて思わないから」
扉の向こうから聞こえた声が、幻聴ならいいのに。
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