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家族2
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心はぐちゃぐちゃだった。
もう訳もわからずに、ただその衝動に突き動かされるように口を開く。
「せんせい」
「シュウ?」
やっと合わせた視線。
どうして、先生が傷ついた顔をしているのか、わからないよ。
「先生、先生はシュウのお兄ちゃんなんでしょ?」
「…そうだよ」
脈絡なく吐かれる言葉を警戒するように、先生はゆっくりと言葉を使う。
「シュウは、シュウなら大丈夫だから、もう聞かないで」
きっぱりと言ったつもりなのに、声は震えて懇願の色を帯びた。
「お兄ちゃんなら、弟のこと、しんじて」
先生の瞳が揺れる。
「シュウ」
掠れた声にまた体が震える。
「シュウ、どうしてお前が大丈夫だって言えるのか、今は分からない」
「……どうしてか…?だってずっと大丈夫だった…」
静かな語り口の先生と、ほぼ泣きながら駄々をこねる僕、説得力なんか微塵もなくて、ただ自分のわがままを通そうとする自分がみっともないな、とどこか遠くの方で考えた。
「もしかしたら、大丈夫じゃなくなったかもしれない」
「なくならないよ」
「分からないよ、人には無性に悲しくなる日があるから。今日がそんな日でもいいんだよ。何も大丈夫じゃなくなって、悲しくて泣いてもいいんだ」
大丈夫じゃなくなってもいい?
それはちがう!!ちがう!
ちがうのに。
無性に泣きたい気分の日があっても、怒りたい日があっても、いつでも「大丈夫」な僕がいいんだ。
泣きたい気分を肯定したら、それこそ大丈夫じゃなくなっちゃうのに。
もう何を言っても伝わらない気がした。
ああ、こうやって諦めるから僕は大事なものも手のひらに留めておけない人間なんだ。
大丈夫でいる努力すら放棄して、甘える存在になって。
馬鹿みたいだ。
「お兄ちゃんなら、弟の気持ちわかってよ」
八つ当たりみたいにポツリと言葉を床に落とす。
先生はすこし驚いた顔をして、それからすごく優しい顔をした。ゆっくりと近づいてきて、ぎゅっと僕を抱きしめる。
「分かりたい。シュウのことを知りたいんだ」
まるで告白みたい。
自嘲の笑みを浮かべながら、それを受けた。
今日も香るお徳用シャンプーの匂い。
この心の苦しさも、シャンプーで洗い流せればどんなにいいだろう。
こうやって、抱きしめてくれる人が、僕を見守る義務のある教師ではなく。
ただ、僕を愛してる人ならどれだけ幸せなんだろう。
もし、これが。
「……兄さんや健斗なら」
囁いた言葉は先生の耳に届くことなくかき消えた。
この胸に、痛みを残したまま。
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