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side:英人
「……おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
顔を合わせることなく、それでも挨拶を忘れない秋の律儀さに苦笑する。
寝室で1人寝させているが、秋はそれが申し訳ないようだった。とはいえ朝は俺の方が早くにバタバタ動き始めるし、布団使ってリビングで寝るのは俺の方が都合がいいだろうと押し切った。
同じ空間で寝るのは嫌だろうと思っての提案だったが、かなり葛藤した上で秋はそれを受け入れた。
秋が寝室に行って20分ほど経ったのを確認するとスマホを持ってベランダへ出る。わざわざベランダに近づいて聞き耳をたてるタイプではないから。
見慣れた番号の呼び出し画面を表示させ、都会よりも少し星の多い空を眺める。
呼び出した相手は割とすぐに出た。
『もしもし?ヒデ?』
「おう、悪いなこんな時間に」
電話相手の拓人は同じ高校のクラスメイトだった。2人して似たような道に進んだが、途中で拓人は家庭そのもののカウンセリングに道を切り替えた。
血の繋がりは関係なく、上手くいく家庭もあれば上手くいかない家庭もあるものだ。拓人はそんな人たちの橋渡しになったり、悪循環を断つ手伝いをすることに生きがいを見出した。
「今うちで預かってる子がいるんだけどな…」
できれば専門家の話も聞きたい。憶測でものを話してはいけないから、秋から聞き出せたこと、噂になっていることを分けて説明をする。思った以上に自分が秋と話せていないことに我ながらがっかりだ。
『……なるほどなぁ』
「はたから見ててかなり不安定でな…」
『頼られることに存在意義を見出してるんだろう。頼れって言われても中々進めないと思うぞ』
「それは分かるんだよ…」
『刷り込みは偉大だよなあ』
10数年かけて家族や周りに、「秋は大丈夫」という図式を刷り込まれたのだろう。
人に頼って楽になるということが苦痛になってしまう。
『その元彼が離れたのが痛いよな』
「やはりか?」
『そりゃそうだろ。まあその子にそれまで付き合った人がいるかどうかは兎も角、かなり仲が良かったんだろ?』
「ああ、高校も秋に合わせて入ったらしいしいつも秋のこと可愛いとか言ってたらしい」
『恋人は家族とも友人とも違う新しい枠だ。それだけに恋人ってのはそれこそ恋人イコール甘えても良い相手、とかの新しい価値観を持つ1つのきっかけなんだよ』
健斗の顔を思い浮かべる。
彼は、未だに秋の中では特別な枠にいるに違いない。そしてそこから抜け出せないのもまた、彼に一度与えられた恋人という役割のせいだろうか。
『いっそお前が彼氏になってやればいいのに』
「は?」
『そしたらまた新しい価値観を与えられるだろ?恋人から受ける影響はいつでも新鮮だからなあ』
わずかにからかうような色を帯びてくる。
兄になりたいと言った口で、秋に恋人にならせてくれと言うのはひどく残忍な気もした。
秋が、俺のことを恋人として見たら。
想像もつかないその「もしも」にわずかに胸がざわつく。
「流石に傷心してる人に下手なアプローチはしたくない」
『そりゃそうだけどなー』
いつまで経っても変わらない元クラスメイトが頭をかいているのがよくわかる。
「英人……」
甘えるように、媚びるように秋の声でその名前が囁かれた気がして、寝室の方に視線を送る。
せっかく電話をした拓人の声も、どこか遠く聞こえていた。
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