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嫉妬?3
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「先生は、恋をしたことありますか?」
ぽつりと尋ねられたのはずいぶん抽象的なこと。
答えに困って秋をみれば、秋も困った顔をしていた。
「恋?」
「…学生の時に」
小さく付け足された言葉に頷く。
それなりに恋して、付き合って、別れてきたと思う。
「僕、すごく子どもだから大人から見たらバカみたいだと思うんです」
「恋をしたら誰でもバカになるよ?」
「…でも、子供は将来を簡単に約束するけど、その約束なんてすぐに無かったことにできることも知ってるずるい恋をするんです」
それはわかる。
幼稚園児が結婚の約束をする、なんてありきたりな話だ。それは微笑ましいものでずるいものと考えるのはいささか珍しい気もするが。
「僕、健斗との恋が幼稚なものだって知ってました」
まるで深刻なことを打ち明けるように密やかに囁かれた告白。夕方に映える秋の顔はどこか曖昧だった。
「ほんの少し環境が違ったから、今までの経験は無しにして盲目的に信じようとしたんです」
「…恋した相手を信じるのは当然だよ」
「分からないんです」
今にも泣きそうな声。
手を伸ばそうとしてやめた。
「苦しいのに。
好きなのに。地獄みたいなものが恋だと言われて納得もしてるのに。
それでも、これは、恋ではないのかもしれない」
「どうしてそう思うの?」
物憂げに伏せた瞳はまるで絵画だと思う。
「…僕は……健斗が好きだったんじゃなくて、健斗の環境が好きだったのかなって…」
「環境?」
「…今は、同性愛も広く受け入れられてますけど。それでも世の中ではマイノリティと呼ばれるし避ける人もいます。」
それは、悲しいけど事実だ。
「それでも、愛を伝え合うことを選ぶことは美しいと思いました。ハンデがあることを厭わずに僕の手を取った健斗は、ほかの…ことがあっても、平気だと」
一息でそこまで言うと秋は息を詰めた。
遠くから聞こえるカラスの声が妙に耳に残る。
「簡単に、一生を夢見て、その一方で「一生なんてありえない」って保険かけて、そうやって騙し騙しの関係だったんです」
「…学生の恋は大抵がそんなもんだよ」
「……そうやって、勝手にどん底に突き落とされた気になってる僕はずるい」
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