アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
仕事帰り 壱
-
「坂口、あんがと__」
『どーいたしまして』
もしここに坂口がいたら抱き着いていただろう。
なにせ、その不安を取り除けるのは坂口だけなのだから。
春を帯びた風がふんわりと奏を包み込む。
暖かい風がまるで坂口の優しさのようだった。
『あ、そうそう、黒川のことそっちに送っといたから。
猫ちゃん、まぁもう死んじゃってるけど、いちおう乗せるって伝えてから乗ってねー、よろしくねー』
「あ__」
電話は奏が言おうとしている最中に切れてしまった。
__まぁ、坂口らしいよね、こういうとこ。
本当はありがとう、といいたかったのだが、まぁ切られてしまっては仕方の無いことだ。
奏はなんとなく微妙にスッキリしない気持ちを持ちながらも、スマホをオフにしてからジャンパーのポケットに突っ込んだ。
ピッピィィイーッ
夜のネオンライトがほとんど無いような、シャッターしかない道。
それを劈くようにいきなりクラクションの音が響き渡る。
普通こんなところを通る車なんてさほどいない上に、クラクションだなんて絶対おかしい。
酔っ払いでも運転しているのか、はてまて黒川なのか。
とにかく道路に出てみる事にした。
「遅いです、奏さん」
奏の右側から声がかかり、そちらを向くと黒川がいた。
黒い車の窓から顔だけを出し、厭きれたような目つきでこちらを見ている。
黒川というだけあって、髪にしろ服にしろ車にしろ何かと黒い。
唯一といっていいかもしれないが、黒く無いところなんて肌くらいだ。
白いといっても、普通の人間の肌ではないレベルで、病気かと思う程白い。
この人が驚いたら新しい白色が誕生しそう、と初めのころ思っていたが、実際黒川は全然驚かないし感情を表に出さない。
否、奏も4年程一緒に居るが感情だなんて一回も見たことが無いから、むしろ感情が無いといった方がいいのかもしれない。
黒川はこの時代では珍しく、懐中時計を常用しており、それを見ていた。
なんとなく、黒川は漫画とかにでてくる執事に似ている。
まぁ、普通の執事でも、懐中時計持参で車までは運転しないだろうが。
「7分と36秒。
いつまで話しているんです、掛かり過ぎですよ」
あと、時間にうるさい。
だから、時間でもなんでも縛られるのが嫌いな奏は黒川が苦手だった。
「ごめん黒川さん」
心にも思っていないが、言葉だけの『ごめん』で普通に場は切り抜けられるのでそういった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
9 / 139