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仕事帰り 参
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それがたとえ、自分に向いているものではないとしても__。
奏が、黒川の可笑しさに気づいたのは三年ほど前だった。
たまに主語が抜けていることがあるが、それでもきちんとした綺麗な日本語が成り立っていたので、奏はそれをあまり気にせずにいた。
それに、黒川には大量の地雷があるらしい。
本人のいう『人間の常識』というものの、ルール外の行動をしたり、黒川の素性や過去を散策しようとすると、必ず怒って長々と説教を長々と始めるのだ。
これまでに沢山説教をされ続けた奏は、あまり深追いはしないようにと心に決めていた。
しかし、本当に、自分に言葉の中の意味が向いていないということに気づいたのは、坂口と黒川が話しているところを見かけたときだった。
たしか、夜の11時を回ったころだっただろうか。
本日中の仕事をすべて終わらせ、そろそろ家__といってもルームシェアなうえに、会社内の最上階の奥にあるのだが…まぁ、そこに__帰ろうと思って、意外と長い廊下を歩いていたときのことだった。
コツコツと自分の革のブーツの音だけが、暗くて少し不気味な廊下に響いていた。
ほとんどが静寂となる、この時が奏は大好きだった。
「坂口社長、奏さんのことなのですが」
別に、見たくて見たわけでもないし、聞きたくて聞いたというわけでもなかった。
ただ単に、黒川が自分の名前を挙げたのに対し、少し驚いて廊下を歩くスピードが遅くなっただけだった。
「私は、あの人のアドレスを削除していただきたいと思っているのです」
__え?
奏ははじめ、黒川がなんでこんなことを言うのかわからなかった。
まぁたしかに、坂口と仕事終了の連絡ついでに話もしていたが、そんなに耐えられないほど長い時間でも通話したわけでもない。
楽しいことだと時間が過ぎるのが早く感じるというが、実際長くても十分程で通話は終了するはずだ。
「なーんでそんなこといっちゃうかなぁ」
坂口の気の抜けた返事はいつも通りだったが、その場の空気は息もできないほどに冷たく凍ったままだった。
奏は声のした方の部屋の扉に向きを変えると、少し開いていて、光が漏れ出ていることに気が付いた。
すぐに、足音を立てて気づかれないようにそっと近づき、息を殺して部屋の中を覗いてみた。
見たかったわけでもない。
聞きたかったわけでもない。
だが除きたいという自分の本性には耐えられなくて、ドアの中を、覗いてしまった。
そして後悔した。
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