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仕事帰り 陸
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黒川は、浅い呼吸をして自分を落ち着かせようとしているのだが、自分が人を傷付けた手を見ているうちに、みるみる呼吸は早くなっていってしまう。
初めて見た、黒川の表情に、奏は驚きと嬉しさしか感じていないというのに。
奏は、初めて味わった黒川の手を見つめていた。
嗚呼、なんで今日だけ手袋をしていないのか不思議だったが、今はそんなことなんてどうでもよくなってしまうくらいに、黒川の手が触れた所を見つめる。
「奏さん、もうこれから、あんなことはっ、しないでください」
黒川は上がりきった息のまま、奏にそう告げた。
黒川はアクセルを踏むと、両手をハンドルに置いた。
__もう終わったっていいたいのか。
黒川のことを見つめるが、黒川は奏のことを気にせず運転に集中している。
そこを汗がたらりと流れ落ちる。
__というか、なんか、おかしいよね、黒川さん。
奏は黒川が可笑しいと感じた。
呼吸が早い__まぁ要するに運動した後に息が上がっているのと同じ__というよりは、もっと、まるで息が出来ないように苦しそうにしている、といった方が当てはまるくらいだったのだ。
「黒川さん、車止めて」
「な、んで、ですっ?」
間に浅い呼吸を入れながら、どうにか語れるといった調子で、黒川はそう聞いてきた。
実際、普段表情を現さないような瞳が、不安と恐怖に震えていたのは確かだった。
奏だって馬鹿ではないので、黒川のそれが何を表すかはわかっていた。
涙が出そうになって、潤んで少し充血した瞳が、奏に「もうあんなことはしないでください」と叫んでいるようだった。
__もう、しないや。
黒川の息が小刻みに、そして過呼吸になる。
黒川の目がだんだんとズレて、焦点が合わなくなっていく。
黒川の額から汗が流れ出て、パタリッパタリ、と色々なところに落ちては音を響かせる。
黒川の唇から唾液が零れ落ちそうになる。
ちょうど、そんなところに信号が表れ、赤を示した。
奏はホッとして黒川を見ると、黒川は今にも倒れそうになっていた。
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