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帰宅したい 弐
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「あ、坂口、結構重いぞ黒川さん」
「お前がそんなに力無いから、そう感じるんだろ?」
坂口は奏の心配を余所に、「よいしょっと」なんて言いながら黒川を負ぶる。
そういえば長袖一枚で来ているせいで、坂口の鍛えられた筋肉がよくわかった。
「えへへ、奏よりちょっとは鍛えてるからね、意外だった?」
坂口は、その体に対して可笑しいくらいほんわかとした笑顔を、奏に向けてそういってくる。
確かに奏や黒川__まぁさっき負ぶろうとした限りだが__よりは、随分と鍛えてるらしかったし、いつも仕事でさえろくに熟せないような性質の奴だったから、奏はとても驚いていた。
しかし、それを表情には出さなかった。
__ここで笑っちゃったり驚いちゃったりしたら、坂口の思う坪だもんね。
「まぁ、そんな気もしてた」
本当はさほどそうは思っていなかったのだが、一応そういっておいた。
この前この罠にかけられた時、奏は『もっと知って、全部知って、俺のこと』なんて言われて、抱き着かれたくらいだった。
親友だからという言い訳を当時されたが、今ではその本意がわかっているため完全に拒否しているのだ。
最近__といっても会社を設立し終わったころ__知ったことだが、坂口は最近でいうゲイらしい。
当初、「お前ってホモだったのか…?」と聞き返したところ、坂口に凄く悲しい顔をされたので、一応ゲイと言うようにし始めた。
だが、やっぱりさほど言われていることに差はないんじゃないかと思う。
あまり世間に関して詳しくはない奏でも、ゲイだのホモだのは偏見の目で見られているということはわかっていた。
最初、分かった時も、奏は周囲と同じく偏見の目を向け、少し避けたり軽蔑していたりした。
奏にだってそれなりの意思はあるが、親友を世間の偏見の目から守りたいという気持ちと、自分も世間のうちの1人だという自己中心的な気持ちとで、ごちゃまぜになっていってしまっていた。
それでも健気__否、今考えると自分に対する偏見がわからなかった単なるKY__に自分に話しかけ、それで関係を保とうといつも笑っている坂口をみていると、自然に奏の自己中心的な意見はどこかへ消えていった。
「さっすが俺の親友だな、奏」
坂口の一言で奏の意識は現在に戻される。
やけに親友を強調したように聞こえたのは気のせいだろうか、と奏がなやんでいると、再び坂口は笑いかけてきた。
「あ、ちょっとごめんなんだけどさ、後ろのドア開けてくんない?
今両手が塞がっちゃっててさぁ、頼むよ~」
すがるように坂口が言うものだから、奏は運転席の後ろ側にあった後部座席のドアを開けてやった。
スライドドアがピピーッと音を立てながら夜の街に響いた。
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