アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
猫の主 弐
-
「…そう、だったの__」
「近藤さん…」
その沈黙を破ったのは近藤だった。
何か決心をしたような、下を向きながらも何かを割り切ったような、そんな声だった。
奏は、その言葉を受け止めることはできたものの、なにか他の返事を返すことさえできなかった。
近藤の言葉に込められた思いが、ズシリと奏を押し詰めていくようで、奏は息が苦しくて、もうここにはいたくないと思っていた。
少し肩が震えていたが、きっとそれは泣いていたのだろう。
しかし、それは急に止まった。
そして、奏の脳裏には、二つの可能性が浮かんだ。
__猫ちゃんの、事実を受け入れたのか、それとも記憶を改ざんしたか、か。
奏はその表情を確かめて、どちらかを知ろうとした。
近藤の顔を覗き込もうとすると、後ろから小さく、だが吐きのこもった声で「奏」と呼ばれた。
それは近藤には聞こえなかったらしく、近藤は俯いたままだった。
奏は、はぁと一つ溜息をすると、きちんと座布団に座り、坂口を見た。
坂口は、そんな奏の髪をすいてくる、いい子いい子とでも言うようだった。
だが、こんなところで上司に髪をすかれる部下だなんて思われたくなかった。
こんなこと、親友でもあまりしないだろう、ましてや今は『上司と部下』なのに。
せめてどちらかが女だったら、わいせつか社内恋愛で済んだものの、今回は男と男で、しかも奏は187cmもあるし、坂口なんて190cm以上もある。
__ありえないでしょ、こんな雰囲気でこんなことして。
奏はちらりと坂口の顔を見ると、少し赤みがかった頬と、なで回すように動く瞳、そして笑みを浮かべる口元が見えた。
完全に興奮状態だったのだ。
「奏さん」
静かに、奏や坂口の行動も止め、心に静寂を与えるように、近藤の声が部屋の中じゅうに響き渡った。
思わず奏と坂口の顔から表情が消え、先ほどと全く同じ格好のまま、首だけを回して近藤の方を見た。
__受け入れてる。
「今まで探してくださって、本当にありがとうございました」
近藤は顔を伏せているが、体をきちんと奏に向けて一礼をした。
奏は驚いてその場に硬直してしまっているが、それが近藤に伝わっているかどうかは実際誰にもわからなかった。
ただただ、その言葉に操られるかのように奏も一礼し、「いいえ、仕事ですから」とだけ言っておいた。
それも奏が本当に言いたかったことだったかどうかはよくわからない。
ただ、返答をしなくてはという意思に従っただけで、奏には何もわからなかった。
「坂口さんも、本当にありがとうございました」
近藤は坂口の方にも一礼をした。
深く、深く。
「いえいえ、これが仕事なので」
にこやかに微笑んでそういった坂口の表情に、奏は一瞬、闇が見えた気がした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
26 / 139