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猫事件 参
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そんなとき、坂口は腰に手をやっておこっているポーズをする。
「おまえなぁ」
「なんだよ」
奏は坂口に見下されているような気がしてならなくて、その格好にはむかついたが、個人的にその坂口もいけるなぁと思ってもいた。
「奏ってさ、無茶するよな」
「そうか?」
他人のためには自分を犠牲にするものだと思っていたので、奏はその発言には少々驚いた。
なぜなら、坂口も同じ考えだと思っていたからだ。
やはり、十年間の幼少期の思いでの差なのだろうか。
捨てられていた自分と、ヤクザという家庭であまりにも裕福に育った坂口とでは、いくらそのあと一緒にいても、考えることや思うこと、定義として身に着けるものなどには、大きな違いがあるのだと突き付けられた。
「まぁ、そうなのかも、な」
それは自分と坂口に向けてはなった、弱々しい言葉だった。
「そうなんだよ、奏の定義ではそうなんだろうけど、やりすぎってのは良くないと思ってたんだよね」
「うん」
奏はもう、返答をきちんと返すことさえできないくらいだった。
落ち込んでしまっていて、立つのがきつくなっていた。
「だーかーらー!」
奏は急にぎゅっと抱きしめられる。
その初めて体験する感覚に、奏は目を丸くすることしかできなかった。
うれしさと、驚きとが、混ざっていく。
いつの間にか、涙で視界がにじんでいた。
「奏さ、もう無茶すんな」
「うん」
声も、震えてしまっていた。
それに気づいた坂口は、奏を強く、強く抱きしめてきた。
息も詰まるほどに、暖かいなにかが感じられた気がした。
「心配すんだろ、バカ」
「うん、うん」
涙が、こぼれてこぼれて止まらなかった。
「ありがとう、坂口」
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