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猫事件 玖
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「あの、あれは、その」
まさか、扉を開けた先に近藤がいるとは思っていなかった。
奏も坂口もしどろもどろになるが、奏は言い返せるような言い訳すらもなかったため、坂口一人にその場を任せることにした。
焦りまくって額から脂汗を吹き出す坂口に、奏は思わず笑いかけた。
なんとなく、「運動の後みたいだな」なんて言いたかったが、目の前に近藤がいるのだから、公私混同は避けなければならない。
そうでなければ、おそらくだが偏見を向けられるのだから。
__にしても、意外とこいつも焦るんだな。
いつも奏が見ている坂口といえば、自分の仕事を部下に押し付けてはふらふらとどこかへ行く、遊んでばかりのだらけた人間だった。
何事にもポジティブで、へらへらずっと笑っているような、緊張なんかとは程遠いような人間だった。
それが今になったらどうだ。
奏以上に緊張しているのがうかがえた。
坂口は人差し指をくるくると回し、目をあちこちに泳がせている。
心なしか内股になっているような気もするのだが、それは多分坂口が気づかないだけで、実際そうなっているのだろう。
近藤はそんな坂口の顔しか見ていなかったし、老眼もあるだろうから視野も狭く、そんな脚の方は見えていないのだろう。
__ははーん、社長責任ってことか。
坂口は社長、奏は社員だ。
ましてやこの現場に社長が出向いているとなると、説教を受けることになるのは、おそらく責任者の坂口だろう。
だからこんなにも焦っているのだ、坂口らしくもない。
坂口はいまだ、「あの、えっと、その」などと短く意味のない言葉を並べてその場をしのいでいた。
近藤は本当に心の優しい人らしく、「うん、うん」とその永遠に続くかもしれない言葉の羅列に、いちいち相槌をうっている。
奏はそれを一歩下がって腕を組みながら、傍観者のごとくそれを見ていた。
自分のことを棚に上げようが上げまいが、こういう雰囲気になってしまったのなら仕方がない。
奏はその場にことごとく流されていた。
__でも、早く終わんないかなぁ。
だが、やはり自分が責められないからと言って、ずっと同じような言葉の繰り返しでは、すぐに飽きてしまうのが奏である。
やはり、つまらないものをいちいち眺めているような人間ではないし、坂口が自分を庇ってくれているのだから尚更終わらせなければならない。
「あの__」
「すみませんっ」
坂口がつっかえながら話すのを遮るように、奏はそういって深々と頭を下げる。
「なっ」
坂口は一瞬驚いて体を震わせたものの、奏の真意をすぐに理解し、深々と頭を下げた。
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