アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
猫事件 拾
-
「あらあら、どうしたの」
奏は頭を深々と下げながら気が付いた。
あの悪臭を忘れていたのだ、あの腐った血の匂いを。
近藤がスリッパのまま、奏たちにペタペタという音を立てながら近づいていく。
奏はぎゅっと強く目を閉じると、それに気づいたかのように近藤の足音は止まった。
決心のつかない怯えに襲われながらも、どうにかそこにいる奏に気づいたのか。
それとも、何か他の物にでも気を取られたのか。
奏はそう推測したが、それはどちらも外れていた。
「御影__?」
近藤は頭を下げた二人の間を縫うようにして抜けていった。
「「え」」
二人は声を合わせ、そしてほぼ同時に上体を起こした。
奏はあたりを見回し、庭の片隅にうずくまっている近藤を発見した。
その肩がかすかに震えるように動いているのを、奏は見逃さなかった。
「なぁ、奏」
「なんだ」
同じく近藤の姿を発見した坂口が声をかけてくる。
「どうしちゃったわけ、コンドーサン?」
「こっちが聞きたいくらいだよ、頭下げて謝ってんのにね」
坂口の問いになんて、奏は近藤ではないのだから答えられるわけもない。
それに頭を下げているのに行ってしまうとは、無視してしまうとは、それは結構ひどいことなのではないのだろうか。
奏は近藤へと近寄っていく。
それを止めるかのように坂口が肩をつかんだ。
その目を見ると、やめろ、とでもいうような覇気があった。
「なんで止めんの?」
坂口の真意がわかっていない奏はそうぶっきらぼうに言った。
それを止めるように、坂口の人差し指が口の前に現れた。
奏が黙りこくると、坂口は小さく話し始めた。
「さっきいってたの、猫の名前じゃないか?」
「心配のし過ぎじゃないの?」
実際、奏たちが一度聞かされた猫の名前とは異なっていた。
しかし、「なんか鳴き声が聞こえんだよ」といって坂口は話を聞いてくれそうになかった。
にゃあ__
そんな会話を、近藤の近くから聞こえる鳴き声が遮ったのだ。
びくびくと二人でおびえながらそこをみると、一匹の猫がいた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
38 / 139