アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
御影が啼く 壱
-
「御影遅いわねぇ」
近藤は心配そうに首を傾げた。
奏はこの狂った人の近くから少しでも逃れるために数歩後ろに下がる。
それにつられて、坂口も下がってきた。
坂口の表情を見ると、それは化け物を見たかのように引きつっていた。
__まぁ、当たり前だよなぁ。
いくらヤクザのご子息様だってしても、こんな酷なことを楽しげにやらせる人間なんてそうそういないだろう。
ヤクザにだっていろいろな事情があって人を殺すのに、この人は死んだ親を連れてこさせるというとても残酷なことを何のメリットもなしにやらせているのだ。
だから、あの猫はなかなか帰ってこないのだ。
感情があるとは思い難いような猫だったが、さすがに親の死ともなれば感情の一部は現れるだろう。
それで現れなければ生物ではない。
そして、奏にはちょっとした疑問があった。
猫の鼻ともなれば親を見つけるのは簡単だろう。
しかし、あれは本当にその猫であっていたのだろうか。
同じようなものはたくさんいるし、やはり確信が持てなかった。
どうにかしてよ、とすがるような眼で坂口を見ると、坂口も痛々しい、心の悲痛にゆがむ顔をしていた。
胸に手を当て、苦痛にゆがみ、汗をたらし__思いあっている姿があった。
しかしそれは、可哀想というよりは色っぽいという印象の方が大きかった。
多分、奏が坂口を好いていたら、完全に襲いにかかりそうだった。
「坂口、お前さ、色っぽさ自覚しろバカ」
坂口の耳元でそう小さく奏は忠告した。
耳元で囁くのが初めてだったからか、それともさっきの坂口の姿に心を打たれたのか、奏の顔は赤く染まっていた。
坂口はひゃっと小さく悲鳴を上げて飛び上がった。
そして耳を赤くして、顔面をも染めながら、奏の方をじっと見た。
「な、なにすんのさ」
奏だって、こんなに驚くとは知らなかったのだ。
事故だろ、といいたかったが、やっぱり反応を見るのが面白かったので、言わないで置いた。
その声が途中裏返ったことからして、本当に驚いたのがわかった。
そして、近藤に気づかれていなかったことを確認してから、耳元に同じようなそぶりで囁く。
「奏ってば大胆だね、人がいるのに」
ようやく事の重大さに気づくと、坂口はちょっと頬を染めながら笑いかけてきた。
「知らなかっただけだよ、ってか自覚しろバカ」
「はいはーい、自覚はしてますよ~。
だって奏を落としたかったからやってたんだもん」
「ほんとにバカ」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
43 / 139