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御影が啼く 陸
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「奏、ごめん」
焦って早口になって話す坂口の顔からは、丸っきり希望というものが失われていた。
奏はそれを横目で見やりながら、必死に打開策を考えていた。
時すでに遅し、それを理解してなおその行動をとった。
__坂口のくせに、なんか辛気臭い。
「べつにいーし」
__調子狂うんだけど。
本当は一つもよくなんてなかった。
早くここから抜け出したくてならなかった。
けれども、坂口が、こんなだからそんな行動をしようとさえ思わなくなってしまった。
いつも、坂口は奏の面倒を見るのが好きだった。
初めて会った時から今の今まで、ずっと自分を過保護なほどに護ってきてくれていた。
だからこそ、調子が狂った。
いつもならもっと自分を支えてくれる人が、他の人の前で屈服しているような、それをみているような気分だった。
正直、坂口は何に対して誤ったのか、奏には理解しなかった。
否、理解できなかった、というのが本当だった。
あらゆる意味を込めていったその言葉が、奏には重すぎた。
それと同時に、愛を知らない奏に、そのすべてはわかっていても形だけのものだった。
だから、奏は何もわからなかった。
「奏にいっつも迷惑かけてて、重要なとこでいっつもこう、俺ってホント最悪だ」
坂口が震えた声で言った。
それは奏と、自分自身に対する呼びかけだった。
「うっさい」
「うん」
__調子狂わせないでよ、バカ。
小さく言った言葉が悪い方向に響いてしまったのか、それともいい方向に響いたのか、坂口は黙り込むと嗚咽を小さく漏らした。
背中を丸め、しゃがみ込む姿は、まるで小さな子供のようだった。
そう、あの日の奏のように、弱い背中だった。
__俺はいつも、坂口に無理させてたのかな。
こんなにも弱い人に護ってもらっていただなんて、自分はどれほどに弱かったのだろうか。
そして、坂口はどれだけ無理をしていたのか。
答えは出ているようで出ていなくて、無力な自分にただただ怒りを感じることしかできなかった。
__ああ、もう、守られるのは終わりだよな。
トラウマの産物へと、脚をもっていく。
右足を少し浮かせて引くと、それを一気に前に押し出した。
グチッと肉に靴がめり込む音がすると、それは御影に向かって勢いよく飛んで行った。
怒られる覚悟は、もうとっくに出来ていた。
それを行動に表せなかったのは、いまだ自分の殻に閉じこもっているからだろう。
だが、ひなは卵にひびを入れた。
自分を守るもの__単なる事故主義な考えを捨て、新しく、自分の守りたいものを、守るために。
に‘‘やあああああああああああああああッッ!!!!!!!!!!!
御影は、そのときはじめて啼いた。
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