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坂口と奏 参
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「「ええーっ!?」」
二人の驚きの声が響き渡った。
周りにいた人々が少しどよめき、そそくさと去っていく。
おばさんは口の前に右手の人差し指を一本そえて、静かに、のポーズをする。
「でも、なんでなんで!?」
それでも奏は興奮が抑えられないのか、大声でそう聞き返す。
当たり前だ、なにせ大好きなパンがもう食べられなくなるのだから。
そして、坂口自身も悲しかった。
奏がこれを食べるときの表情、仕草、すべてが見られなくなってしまうのだから。
「ほんとに、なんで、なんでっ!!?」
坂口もそれには興味を示した。
奏のカレーパンの時の笑顔がもう見られなくなるのなんて、あまりにも悲しすぎた。
歯をギリリと噛み締め、眉間にしわを作った。
心配そうな顔をしている奏。
その隣にいる坂口は怒ったような顔をしていた。
外から見れば全く違うことを考えている、気の合わなそうで正反対な二人だが、実際は全く同じことを考えていて、気は全然合っていた。
なんで閉めるんだ、と。
「実は、ね」
そのとき、おばさんはすごく悲しそうな顔をした。
一瞬だが、奏と坂口から、なぜなのか問い詰めなければ、という思考が消えうせるほどに、その『笑顔』には威力があった。
すべてが終わるような、笑顔__。
それを見たとたんに、たとえようのない恐怖が坂口を支配したのだ。
その時、奏の顔は見ていなかったものの、息をのむような音が聞こえたので、きっと同じような表情をしていたのだろう。
__もう、聞きたくない。
そう思ってしまうほどに。
__もう、ヤダ。
そう感じてしまうほどに。
怖かった。
「実は__、私の主人の余命がね、もう、半年もないのよ__」
目が潤むのは、怖いからなのだろうか、その時の坂口にはわからない。
だが、『今』、この歴史を傍観者として眺める坂口には、わかっていた。
命の尊さゆえに、涙が出たのだと。
「そう、ですか__」
目を伏せながら、そういった。
こんな恥ずかしい姿を奏に見せたくなくて。
だから、その時、おじさんを恨んだ。
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