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帰宅してから 弐
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「ふーん、まーた黒川さんの話ね」
出ていこうとしたら、坂口が不意に口を開いて話し始める。
奏は振り返ってみようとしたが、その声のした方向には壁があった。
__坂口は俺がいなくなったと思って話してるのか?
「ここに俺がいんのにさ、それでも黒川を選んじゃうわけなの?
俺はいっつもわき役なの?
そー決まってんの?
まぁ俺はさ、奏にはふさわしくないけどさ、周りから奏の幸せをあがめられればそれでいいんだけどさ、でもさ__。
黒川だって報われない恋じゃんか、奏だって、俺だって__。
この三人の中で誰かと結ばれるなんてそんなの無理なんだよ、だって、だって。
__俺たちは皆、一生片思いなんだよ__」
坂口は大きくため息をついている。
奏は、本当に自分に気づいていないんだと思った。
そうでなければ、あまりにもさんざんすぎる愚痴だ。
まぁ、改善できるならしたいとも思っていたから、愚痴っても欲しかったのだが、やっぱりこういう風に影で言われるのは嫌だった。
__それに、一生片思いだとか、結ばれるのが無理だとか、なんなんだよっ。
少し感傷的になっていた。
拳を、壁にぶつけそうになって、やめた。
意味がないからだった。
「あーんもう!
嫌になっちゃう嫌になっちゃう、嫌になっちゃう嫌になっちゃう嫌になっちゃう、嫌に、なっちゃうよ、もう」
坂口の声は震えていた。
泣いているように聞こえたが、「大丈夫か?」なんてひょこひょこ出ていけるような状況下ではなかった。
それに、この行動は完全に盗み聞きというものだった。
さらに居辛くなった状況下で、奏は動けずにいた。
「ひどい奴だよ、俺も、黒川も、そして奏も__」
「__ッ__!」
奏はがらんとしているだけの廊下を、ドアから1、2歩後ずさった。
押し殺した息が、大きく漏れてしまった。
「ッ、誰か居んの!?」
奏は、足音を極力立てないようにして、その場を離れた。
黒川のいる部屋についたときには、奏の両眼は潤んでいてよく見えなかった。
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