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『愛』中心の人生 壱
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「にしても、気持ちよさそうに寝てるなぁ」
気絶というよりは、眠っているのに近かった。
すぅすぅと寝息を立てている。
奏は右手を頬に添えると、その温かさになにかを忘れそうになる。
温かいというよりは、自分の手よりも少し冷たいくらいの温度だが、それが心地よかった。
覚えていない昔を思い出すような、懐かしい気分になる。
一度不思議に思って、黒川に「昔会ったことあったかな?」と訊いたことがあった。
黒川は少し驚いたような、怯えた表情をしてから、「よくは分かりませんよ、昔のことなんて」と言ってきた。
それに冷たさを感じながら、「そっか」と返事をすると、黒川はもう奏の隣にはいなかった。
その代わりに坂口について回っていて、少々の怒りを感じていたような気がする。
「にしても、意外と唇とか薄くって、睫毛も長いんだよなぁ」
カッコいい人間というよりは、黒川は美しい人間だ。
眉目秀麗かつ容姿端麗、スタイルの良さなんてこれ以上の人間を見たことのないくらいで、いっそこんな仕事をするくらいならモデルをすればいいと思ったくらいだった。
声だってそうだ、よく響く、男にしては少し高い声が特徴的で、それにいわゆるイケボだった。
陰で声優業でもやっていればいいのにとも思った。
「んっ__」
黒川が短く声を漏らしたので、起きるのかと思ってさっと手を離した。
すると、黒川は寝返りを打った、それだけだった。
整ったままの髪形で寝かせられていたのだが、それのせいで髪が少し乱れる。
「無防備だよね、俺が獣みたいにここにいるのにさ」
奏は黒川が欲しい。
しかし、体なんて欲しくはない。
その意識だけでいい、いつか自分を思ってくれる黒川の中身が欲しい。
中身にある、『愛』が欲しい。
言葉なんて上辺だけだから、自分を好きだなんて言う言葉や、感情のこもってもいない行動なんかは欲しくない。
体だけ手に入ったとしても、それで悲しくなって虚しくなるのは、きっと手にした自分だけだ。
たとえ拉致や監禁をしたとしても、それで自分に心が向くのなんて、内容を思い通りにできる漫画や小説だけだ。
人生はそんなに甘くない、『愛』はそんなに簡単にはもらえない。
けれども、そんな思いとは裏腹に、奏の体は黒川の体を求めてしまっている。
目をぎらぎらと光らせる様は、まるで獲物を見つけた猛獣のようだった。
自分で虚しくなるのはわかっているのに、救いようのない行動を自分からしていくなんて本当に馬鹿な体を持ったものだ。
__黒川さんの、愛が欲しいよ。
「いつかさ、黒川さんの愛を、俺に捧げてくれよ。
そうすればきっと、少しは楽になるんだ」
自分には無い、『愛』を中心として生きてきた奏は、それと同時に愛に縛られて生きてきた。
愛を欲するが故に、多くのものを失ったし、嫌われたくはないが故に、着実に人間を避けるようになっていった。
自分から、愛によって苦しむ道を選らんでしまった。
一生回り続ける苦痛のサイクルに身を投じることしか、もう愛をもらえる道がないんだと自分に言い聞かせて。
__ああ、愛に飢えるだけの人生か、悔いはないけれども、それでももっと明るい道に生まれたかった。
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