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黒川と一生合えない思い人 参
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どんなに走っても、やはりその背中には追い付けなかった。
この夢では追い付けないようになっているのか、どんなに一生懸命に走ってもその間の距離は全く変わらなかった。
__もしかして、これって止まってもこの距離のままなんじゃないんでしょうか?
そう思って、走るのをやめると、その背中はどんどん遠くなっていく。
「え__、おいていかれるんですか」
虚しさを感じながら走るのを再開すると、どうやら今の速度では追い付けないのか、背中は遠いままだった。
少々急ぎめの速度で走るようにすると、その姿は徐々に近くなっていき、前と同じようなところでそれ以上近く寄れなくなった。
どうやら、一定距離しか近づけないようだった。
それから何分間か背中を追いかけて走っていると、ようやく家が見えてきた。
周りにある家とは一見同じように見えるが、ポストの形や犬小屋がないところが違う。
裏口のカギはいつもかけっぱなしで、その鍵も持っていなかったので、昔の黒川は玄関の前に立ち、今の黒川も後を追う。
そして、ある事に気が付いた。
__疲れて、いない?
体力の消耗が全くなかったのだ。
息切れすらもしていなくて、ずっと走っていたとは思えないくらいだった。
今となってはもう大人だから、走る機会もさほどなかったので、あの距離を走るとなると息切れして倒れそうだなんて思っていたのだが、これなら一生走っていられそうだ。
まぁ、飽きるから一生は走らないだろうけど。
そう考えていると、昔の黒川はドアを大きな音を立てて入っていったので、今の黒川も急いでその中へと入っていった。
そこには父と母がいた。
父はキッチンに立ち、母はリビングで編み物をしていた。
なんでこの季節にと思ったが、母は編み物が好きだったから何とも言わなかった。
「父さん、母さん__」
思わずそんな言葉がこぼれていた。
今の奏を見ると、やはり両親のことを思い出してしまう、そんなことで奏を避けていたこともあった。
やはり二人を見ていると、自分だけが場違いなんだと痛感させられる。
幸せな家庭に、こんな人間は必要なかった。
「あれ、父さん、今日は仕事じゃなかったっけ、大人の人は、今日も仕事なんでしょう?」
「ああ、そうなんだけどね、今日は特別な日だから、早めに切り上げてきたんだ」
昔の黒川と昔の父の、そんな何でもない会話。
昔のその日は、確かに特別な日だった。
昔の黒川はそんなことに興味も示さずに、ふぅんとだけ言ってから階段を一段抜かしで登っていく。
そして間もなく、小さなピンクの包みを持ってくると、「いってきます」とだけ言ってそこを飛び出していった。
__このシチュエーション、まさか!!?
カレンダーには、黒川の名前と、誕生日の文字が書いてあった。
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