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黒川と一生合えない思い人 伍
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「嗚呼、もっと、もっと早く気づいていれば、嘘だ、嘘だ__」
いつもの敬語の口調から、気づかぬうちにため口へと戻っていた。
それくらい、気を取り乱していた。
__なぜ、なぜこんなことになってしまったんだ、なぜ、なぜ、なぜ__。
いくら夢の中であったとしても、それは確かに過去の出来事だった。
それでも、目前で起きた出来事に戸惑うことしか、今の黒川にはできなかった。
頭を抱え、できるだけ声を殺しながら泣いた。
だが、その時の黒川には、泣いているかすらもわからなかった。
胸の奥からあふれ出る、言葉にも表しようのない、ギトギトにため込まれて煮詰まれて、腐ってしまったような酷い何かが、胸の奥から悲鳴を上げて這い出そうとしてくる。
黒川は、それを止めようとしたものの、その行動は空しく何の効果も成さなかった。
それをただ、あらゆる体の個所から、あらゆる細胞の一つ一つから、滝のように流すことしかできなかった。
「父さん、母さん__、ごめんなさい、ごめんなさい」
潤んでいる目から、景色の色が見えた。
紅い、なにかが。
そっと涙をぬぐい、嗚咽をどうにかこらえながら、その景色を見た。
そして、言葉をなくした。
__綺麗、だ__
それはただ無情に、綺麗だった。
夕焼けが、空を覆いつくして、ただただ紅く染めるだけの景色が。
苦しみをもみ消すように、和らげるように、心を満たしていく。
「ありがとう」
夕焼けに、そういった。
それと同時に、周りの音が聞こえてくる。
ギーコギーコと、ブランコをこぐ音が。
「ちぇっ、いつになったら来るのさ、もう」
音の方を向くと、奏がいた。
紅く染まった公園で、一人ブランコをこぎながら、昔の奏はそういう。
「奏、さん__」
目に映ったとたん、嬉しくて、悲しくて、そして愛おしくて、その場に崩れこんだ。
「もうほんとに何なんだよぉ!
__大事な話があるって言うからここに来たのに。
まったく、家でもいいじゃん、って言ったら、ここじゃないとダメっていうんだもん、そんなにこの場所が好きなのかな?」
時間に、乗り遅れた感覚のまま、黒川は奏を見ていた。
「本当は、この日に__」
__私は本心を伝えようとしていたんです。
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