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黒川と一生合えない思い人 漆
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「う、嘘__」
黒川はその場に立ち尽くす。
何をしていいのかもわからず、目を見開きながらその場に固まっていた。
幼い彼には、この状況を飲み込むのはとても難しかったのだ。
ただただ、口をパクパクと動かして、魚のように無音でいることしかできなかった。
一方奏は、黒川よりも早く、しかしやはり普通の人よりは遅くそれを飲み込んだ。
目を動かし、悪臭に顔をしかめている。
「はやく、口抑えて!」
奏は煙が着々と降りてくる中、常備していたハンカチを口元にあてながらそういう。
それでも、黒川は微動だにせず、ただただ煙の出どころを見ていた。
奏はらちが明かないと悟ったのだろう。
今の黒川には何の言葉も届いていないと。
「はやく、塞いで!」
奏は黒川のポケットに手を突っ込んで、中からハンカチを探りだす。
その手にぎゅっとハンカチを握って、思い切り黒川の口を抑えつけた。
息が苦しくなった黒川は、瞳だけを動かして奏を見やる。
その瞳に涙が潤んでいるのを、まだ本人は知らない。
「何するのさ__」
「ばかっ、この大馬鹿っ!」
黒川が息をしようと奏の手を外そうとすると、その手はあっけなく外れた。
奏はそのまま力が抜けたのか、へたり込んでしまう。
「大丈夫か!?」
黒川は奏の隣にしゃがりこむと、ようやくその場の状況をようやく理解したらしい。
煙がどんどん降りてきて、奏のことをそこに縛める。
奏は黒川を正気に戻す際、両手を使っていたからかもしれない。
一酸化中毒かもしれないと思い、黒川は自分よりも何㎝も大きい奏を負ぶると、ふらふらとした足取りでその場から離れようとする。
だが、煙は、黒川をその場から逃がすまいと、両手で一帯を覆って黒川の視界を黒く塗りつぶしてくる。
何も見えなくなってしまって、奏は少し落ち着きを失って息を荒くしているようだった。
早く逃げなくては、しかしどうすればいいのかわからない、奏はそう考えてじたばたしているのかもしれない。
だが、前に道を照らす光はなかった。
しかし、黒川にはその場のルートが手に取るように分かった。
熟知していて大体ルートが分かったからか、それとも命の危機を感じた身体が、なにか逃げるのに有利な異常を来したのか。
定かではないが、とにかく『逃げる』の一つだけを心に浮かべて、足を動かした。
「大丈夫だから、落ち着いて」
できるだけ奏を焦らせないように、落ち着いた低い声でそういう。
うん、と小さく返事は帰ってきたものの、まだ奏の呼吸は荒い。
急いで奏と逃げた。
家から風が吹いてこない方向に、離れる。
追ってこようとする煙から、放れる。
「しっかりして、しっかりしてよ!」
奏の息が急に静まった。
それに驚いて大声を出す、公園の近くに住んでいた人々が家の方向に向かっていくのが見えた。
「いっちゃだめだ、いっちゃ、だめ__」
黒川も自分の口を押えていなかったので、一酸化中毒になったのか、体の力が抜けていくのを感じた。
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