アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
黒川と一生合えない思い人 玖
-
「夢だったらよかったというのに」
黒川は目を覚ますと、上体を起こすこともなく、ただため息をついた。
うんざりしたような表情で、布団を足元に蹴って押しやった。
そしてまた、ため息。
今まで見ていたのは夢だったというのに、起きてからも、黒川の気分は晴れずにいた。
脱力し、起き上がろうともせずに天井だけを見つめる。
その姿は、感情をいつも最低限しか出さない黒川にとっては、とても珍しいものだった。
そう、たとえ赤の他人でも、わかるくらいに。
まぁ、こうも落ち込んでいる理由は明確だった。
今、夢の中で見た出来事が、実際は自身が幼いころに体験した事実だったからだ。
自分自身の断片的な記憶の数々の、たくさんの謎を一遍に説いたとしても、何一つ嬉しい気持ちにならせてくれるものなどなかった。
寧ろ、あの時の記憶が鮮明に思い出されてしまい、焼け焦げた姿となって見つかった両親の姿が、色濃く瞼の下に残ってしまった。
しかし、謎と違うものだったら、とてもいい気分になれたものがある。
『あの頃の奏を護れた』という事実だ。
黒川は、ただ、奏を護れたという事実にだけ、酔いしれるように喜びに身を浸らせ、昂揚した表情で宙を見つめていた。
これを見ている他人がいたら、薬物中毒になっていて幻覚を見ているのかもしれないという思考にたどり着くかもしれないが、それでも黒川は構わなかった。
__あの頃の奏さんだけ居ればそれでいいのです、それだけがあれば十分、私は幸せな余生を送ることができるのです。
それだけさえあれば、よかった。
あの頃の、初恋の相手の顔さえ頭に浮かべば、それだけでよかった。
「それにしても、今は何日の何時何分なんでしょうか。
奏さんにあんなことをされて、気絶してしまうだなんてとてももったいないことをしてしまいましたが__、あれから何時間ほど寝ていたんでしょうか」
常備している懐中時計を取り出そうと、胸ポケットに手を入れるも、何もなかった。
否、実際は胸ポケット自体が無かったのだ。
何事かと思って服を見ると、いつもの決まったスーツのような姿ではなく、とてもラフな白い長袖の服と黒いズボンという姿だった。
__きっと、奏さんがやってくれたのでしょうね。
あの人は罪悪感を感じすぎるところがあるので、もっと罪悪感を感じさせないようにと心がけていたのですが__、自分で行った行為に自分で傷つくだなんて__。
と、黒川は自身の頬を両側から、ビシビシと軽くたたいた。
これ以上考えたら、何かおかしい方向に行きそうになったからである。
__今の奏さんに、そんなことは微塵も思いませんよ。
記憶を失ってしまった奏に、昔の奏を重ねることなんて、やっぱり無理だった。
それでも、自分の施行がそれを覆そうとして、それが何よりも怖かった。
__やはり、愛を欲する獣になってしまったのでしょうか__?
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
78 / 139