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何も知らない奏 肆
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コツコツと、コツコツコツコツと、足音が響いた。
驚いてドアの方を見るも、もう走り去ったようで、もうそこにはいなかった。
「誰だったんだろ、ね、月光さ__」
同情を、同意を求めるように振り向くと、そこにあったのは月光の笑顔だった。
いつもと変わらない笑顔が、そこにはあった。
__怖い。
直感で感じるのは、彼に対する恐怖。
何事にも変わらなくて、それが逆に怖かった。
「さぁね、自分で確かめてみたらどうだい?」
いつもなら、さぁね、だけで終わるところだったのに、彼はそうは言わなかった。
何か意味深げに、自分で確かめてみたらと、奏に言ってきた。
__何か、知ってるのか__?
知られちゃいけない人、だったのか__!?
どんどん、場の空気が冷えていく気がした。
否、それは気だけではなかったのかもしれない。
遠くで、ドアが開く、音がした。
ギィィと、重そうな音。
そして、聞こえてきたのは__。
「私なんて、死んでしまえばいいのに!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
・・・
「・・・あ・・・」
目の前に、何かがある。
ノイズがかかっていて、よく見えない。
乾ききった声が、長い沈黙の後に零れた。
放心状態だったのか、記憶がない。
__黒川さんの声が響いて、嗚呼。
嗚呼、なんてことをしてしまったんだ、黒川さんを、傷、つけて__。
目の前が、見えてきた。
頬を、何かの感触が縦に伝っていったから、なのだろうか。
それとも、状況を呑み込めたからなのか。
「奏君、泣いてるの?」
月光が、心配などしていないような、笑みを浮かべながら、ただただこちらを見つめてくる。
嫌になって、何もかも放り出したい衝動にかられたが、それをこらえた。
「全部、全部全部あなたのせいだ!!」
はずだった。
気づけば心の中にため込まれていたギトギトは、口から吐き出されていた。
そのせいか、周りが暗く見えた。
__俺は悪くない__!
だってこの場で、話を振ってて、俺にこれを話させようとしたのは、まぎれもなく月光さんなんだ、だから、だから俺は悪くない!!
全部、月光さんのせいだ!!
それが声に出ているともわからぬまま、ただただ思い続ける。
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