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情報 弍
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カランカランと、扉についた飾りが音をたてる。
途端に、「いらっしゃいませ」という声が、低音と高音で聞こえてくる。
この町で月光に対抗できるほどの情報のある人間は、おそらく一人しかいない。
それがこの目の前の人物なのだ。
ウェーブがかった、弱い緑で染められた髪は、風に揺らめけば鼻腔を擽る甘い香りを漂わせてくる。
垂れ目で、長く延びた睫毛は女のよう。
微笑むとまるで天使のようだと、女性からは人気らしい。
しかし、その優しい印象を砕くほどの威力のある、頬に残る十字の入墨は、いつでも彼を目立たせていた。
マスターと皆に呼ばれ、親しまれている彼は、実際謎の多い人物である。
月光と関係があること以外、殆どの人間は彼のプライベートについて知らない。
そう、知らない筈なのだ。
しかし、もうひとつバレバレのプライベートがある。
それは__
「坂口さんこんばんは!
今日もいつものブラックですか?」
この店員についてのことなのである。
いかにもかわいい見た目のこの店員は、実際、マスターの恋人なのだ。
くりくりとした大きな垂れ目に、優しく曲がった眉。
ピンクに染まった唇は、誰をも吸い付けてしまう程に愛らしい。
珍しく水色に染めた髪は、兎の耳のように両サイドからひょっこりと出ている。
笑うだけで花が舞い、ズキューンという胸の音があちこちから聞こえるようだ。
「あれ、今日は奏さんいらっしゃらないんですね。
この前の話の続き、聞きたかったんだけど、残念だなぁ」
「奏と何話してたの?
俺としては超聞きたいんだけど。
奏、なんて言ってた?」
ずいっと身を乗り出して迫る。
気圧されたように店員が苦笑いを浮かべた。
興味津々、犬のような眼をしてしまっていることはわかっている。
だが、奏の言ったことは自分にとっては甘い甘い蜜なのだから、それに興味を示さないわけがないし、抑える必要さえもないと思っている。
「アオイ、まずは席に座らせてあげて?
坂口さんがここに来なくなったら嫌だろう?」
「うん、わかりました、マスター」
マスターが優しい声で店員__アオイに話しかけると、アオイはぴくんと体を揺らしてから、マスターに向かって微笑んだ。
何らかの指示なのかは知らないが、女性が悲しむだろうと思って見やったが、寧ろ歓喜の目で見ていたので、どうやら腐っているものが多いようだ。
「坂口さんはカウンター席好きですよね。
多分今日もマスターと話しに来たんでしょう?
マスターが言ってたんです、奏さんのことで話しに来るかもしれないって。
特等席、女性の方をできるだけ座らせないように開けておいたんです。
どうぞ」
坂口は別に女性が嫌いだとか苦手だとかいう人間ではないのだが、何かと一緒に来る奏に色目を向けているような気がして、どうしても気がたってしまう。
奏に知られるのが恥ずかしくて、ちらちらと睨んでいたのだが、それを見かねたマスターに「店の客は減らされたくないんでね、ちょっと女性の方々を除けておくからさ、坂口君はもうちょっと落ち着いて欲しいかな」と言われてしまったので、できるだけ睨まないようにしている。
実際、マスターもそうしてくれているし、この店に出禁になってしまうのはやはり避けたいものである。
つゆ知らず、16歳の時から父に連れられてこの店に出入りしていた坂口に対して、2年前と案外最近から入ったアオイは、坂口を女性恐怖症か何かと勘違いしているらしい。
確かにたまににらむが、別に女なんぞ自分に敵うわけでもないと、心中では自身の力を自画自賛してしまっている坂口にとっては、それが恐怖の目と勘違いされているのには少々腹が立った。
が、そんな些細なことでアオイにキレてしまっては、それこそ本当にこの店に出禁になってしまうだろう。
にこやかにアオイが椅子を引いてくる。
キツい香水の臭いもしないし、息もしやすかった。
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