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④
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思わず押し黙る。思い付きもしなかった。しかし、改めて考えると、とても危険な事をしていたのかもしれない。
「……」
俺は、出勤前のトールを思い出す。彼は、いつものようにご飯を食べていた。見送りも普通だったし、アミラからよく書庫に篭っているがそれ以外特に不調はないとも聞いている。
人間飼育免許を持っているアミラが、トールの不調を見逃すとは思えない。そういえば、日に日に肌や髪に艶が出て、来た時以上にコンディションが良くなってきているとは言っていた。
「……。フリークス」
「なんだよ」
「俺の記憶が正しければ、許容量ギリギリの魔力を毎日吸収してると、日に日に衰弱していくんだよな?」
確か、耐性のない毒を少しずつ体に蓄積させていくのと同じ行為だと把握している。案の定、フリークスは頷いた。
「そうだよ。黒髪くん買ったのが数ヶ月前だろ。それから毎日なら、もう寝たきりになっててもおかしくないよ」
「……これも俺の記憶が正しければ、あれは日に日に元気になってるぞ」
時が、止まった。
カチカチと時計の音が静寂を取り戻した空間の空気を震わす。フリークスは俺の言った言葉を頭の中で反芻したにも関わず、理解出来なかったみたいだ。自分の聞き間違いだろうという表情を浮かべながらも、ゆっくりと口を開く。
「………いま、なんと?」
「元気になってると言ったんだ。アミラからもそう報告を貰ってるから、正しいのだろう」
「ちょ、ま……は?」
混乱しているのだろう。フリークスは、頭を抱えて蹲ってしまった。どうやら、彼の常識からして、俺の言葉は予想をはるか斜めを貫いた解答だったらしい。続けて、呻いたような声が親友の口から漏れた。
「嘘だろ……おい」
「嘘じゃない。そんなに信じられないなら、今度弟も連れて見に来い」
「黒髪くん見たいと思ってたし、お邪魔しようかな」
「来るなら事前に便りを寄越せ。お前は突然訪問が多くて、セルフィが怒る」
「はーい。そうすると、3日後かな。取り敢えずジークが行くまで、黒髪くんを花弁に入れるなよ。今は良くても、何時どうなるか分からないんだから」
本当は今日もトールを入れて寝たいのだが、それであいつに死なれるのは困る。やっと手に入れたの俺のものだ。壊してばかりだった俺だが、出来るなら彼を大切にしたい。
……3日。それなら我慢できるだろう。
「分かった」
「じゃ、俺仕事に戻るわ」
ひらりと、入ってきた時と同じように、風のように消えるフリークスに、ため息ひとつ吐いて、書類に向き合う。
「……あれが俺達の文字を書き始めたなんて言ったら、余計驚くだろうな」
トールの為に買ったメモ型の魔石と、専用の羽根ペンが入れた箱をカバンから取り出し、俺は苦笑する。トールは、素直に受け取るだろうか? こっそり机の上に置いといて驚かすのも、また面白そうだ。
「あれがいると、退屈しないな」
生意気で、ことある事に俺の手をすり抜けて、どこか遠いところへ行こうとするトール。最初は面倒としか思わなかったが、今では自分の気を引くために敢えてやっている行為に見えてくるから、俺はもう末期なのだろう。
「俺はお前を手放す気は無い」
逃げるなら、草の根をかき分けても探し出し、連れ戻す。トールの家は、他のどこでもない、あの屋敷だけだ。そして、彼の居場所は、俺の目の届く範囲のみ。これは、神であろうと変える事の許されない事実だ。
「トール。お前は、髪の毛1本まで全て俺だけのものだ」
呟き、俺は笑みを浮かべた。
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