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「だから、トールちゃんが文字を使えるようになった情報は、この屋敷と俺達の中だけで留めて欲しい。漏らすものなら、例え兄さんでも許さないから」
「僕も、ジークさんほどではないですが、悲惨な事件は見ています。僕はトール君の飼育員として雇われてる身です。ですが、僕はトール君の事を友達と思っています。大切な友達に、あんな悲しい事件に巻き込まれて欲しくないです」
「アミラ……」
まさか、俺の事をそんな風に思ってくれてたなんて思ってもみなかった。俺は、アミラを文字を覚えるために利用した。なのに、俺を友達と言ってくれる。もしかしたら、脱出に協力してくれないのも、雇われたからというよりも、友達を危険に晒したくないという理由が強いのかもしれない。
なんだが、急に自分の考えが恥ずかしくなくなってきた。
フリークスは、ジークとアミラを見た後、ため息混じりに口を開く。
「……。分かったよ。誰にも話さない。だから、二人してそんな辛そうな顔するな。可愛い顔が台無しだろ?」
「もう、調子いいんだから兄さんは」
笑い合っているジークとフリークスとアミラを見て、さらに胸が苦しくなった。俺はこんなにもこいつらに大切にされている。それを様々と見せ付けられた。普通なら感動するところなのだろうが、元の世界に戻りたいと願っている俺にとってみれば、枷でしかない。
嬉しい。苦しい。ありがとう。ごめん。
感情がぐちゃぐちゃだ。
「俺も、あいつらと同じ意見だ」
「え?」
化け物は、俺のシャツのボタンを外すと、左胸にある紋章の上へ指を這わす。ぞくりとした快感が走り、思わず後ろに体重をかけると、耳元でやつの低い声が響いた。
「お前は、俺だけのものだ。例えそれで世界が変わろうとも、お前を危険に晒すような情報を他の奴に渡す気はさらさらない」
それに、お前が誰かの手に渡るなんて事は、神が許しても俺が絶対に許さない。そう言って、拘束を強める化け物に、俺は下を向く。
「なんだよ……それ」
なんで、お前までそんな事言うんだよ。
俺は、きっとこの世界に召喚された人間の中でも恵まれた環境にいるんだなというのは、薄々感じていた。なのに、こいつらに対する俺の態度は、とても生意気で言うこと聞かない面倒なガキのような感じだ。
元々、感情表現はストレートな方だが、それに加えて、化け物の住処にいるという影響か、無意識に警戒心が強くなってるのも原因だろう。まぁ、それを言い訳にしたとしても、好かれるような対応をしていたとは思えねぇ。寧ろ、嫌われててもおかしくない事ばかりしてた筈だ。それを狙ってわざとそういう態度をとった事も少なくない。
もしもここが元いた世界だったら、俺みたいなペット、鎖で繋がれるか、最悪要らないと捨てられてもおかしくねぇ。それなのに、こいつらは……。
「……っ」
俺は、魔石に殴り書きをすると、顔を伏せながら皆に見せる。頬を伝う雫は、きっと心の汗だ。
『ありがとう』
微かに残っていたこいつらへの警戒心が、完全に俺の心から消えた瞬間だった。
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