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.(玖音side)
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「飲み物空ですね。どうします?」
「じゃあレオンさんのオススメください」
「んー、チョコレート好きですか?」
「好き!」
「じゃあチョコレートベースのカクテルにしますね」
「はーい!」
にこっと笑顔を返してシェイカーを手に取る。
今日お客さん多いな…さっきから途切れない。
でもこの仕事は好きだし苦に思ったことはなかった。
強いていえば今日はなるべく早く帰りたかったなって思うけど…忙しい中でそんな事を言うほど働く人間として腐ってない。
ここに置かせて貰ってること自体めちゃくちゃ感謝しなきゃいけないことだから、仕事で返すしかないんだ。
「お前いいの?今日このあと…」
カクテルを作ってると横にオーナーが寄ってきて小声で耳打ちしてきた。
元々のシフトから少しオーバーしてるし、さっき話聞いてたし心配してくれてるんだろう。
「大丈夫です。遅くなるかもって言ってますし。この忙しさで帰りますなんて言えるほどクズじゃないです」
「おーおー、頼もしい」
せっかくセットしてる髪をぐしゃぐしゃに撫でられる。
…ったく、調子いいんだから。
「ライトさんとレオンさんって仲良いんですか?」
「んー?そうだなあ、仲良しだよな?」
「さあ」
「レオンさんツンデレ〜」
「ツンデレー」
「全然可愛くないっすよオーナー」
お客さんの真似をしてかわいこぶって近づく顔を押し返す。
忙しいけど…この環境は凄く楽しい。
あの頃オーナーに出会わなかったらきっとこんな風にこの街に来ることもなかったし、和くんとも出会ってなかっただろう。
今幸せだなってそう思えるのは少なからずこの人のおかげだと思ってる。
本人には中々言えないけど。
「お疲れ様です」
「レオンさんばいばーい」
「ゆっくりしていってくださいね」
結局一時間ほど残業したところでやっと落ち着いてオーナーが「暇なうちに帰れ」って言ってくれたからお言葉に甘えて帰る支度をする。
着替えながら携帯を開いたら色々通知が来てる中に和くんからのメッセージが目に付いた。
《ちょっと出掛けてくるね》
って。それだけ。
「…どこに?」
いきなりどうしたんだろう。
その文だけじゃ何処に行くとか具体的なことは書いてなくて何もわからなかったけどもう三時間以上経ってる。
流石にもう帰ってきてるだろうなと思って特に何も気にしないで着替えてタクシーで和くんの家に向かった。
そして家の前について和くんの部屋に電気がついてないことに気づいた。
ただ寝てるだけかもしれない。
そう思いたいのに何故か胸騒ぎがして階段を足早に登ってインターホンを鳴らしてみたけど、何も反応がない。
…何でだろう、凄く嫌な予感がした。
合鍵を持っているからそれを使って部屋に入ろうとするけど焦る気持ちが手元を狂わせる。
中々鍵穴にハマらなくてそれが余計イライラさせた。
早く…っ!
ガチャ!っと乱暴にドアを開けて部屋を見回す。
「和くん!」
真っ暗で誰もいない。
カーテンを閉めてるから分かれたあと家に帰ってきたことは確かなはず…
寝室を見ても朝起きたままの状態が保たれてるだけ。
キッチンにラップがかかった不格好なハンバーグを見つけて、更に心臓が押しつぶされそうになった。
その場に座り込んで頭を抱える。
何で…何でいないんだ?
きっと慣れない手つきで僕が好きだっていった料理を作ってくれて、寝てもいいよって言っても僕が帰るのを待っててくれて、ドアを開けたら嬉しそうに駆け寄ってくる。
そうだったはずなのに。
電話をかけてみるけど冷たいコール音が続くだけ。
…どこに行ったの。
けど何かしら巻き込まれてるって悟った。
遅くなるって連絡が無いこと自体可笑しいし、そもそも和くんがこの時間まで何処かにいるなんてありえない。
とにかくじっとしてなんていられなかった。
部屋を飛び出して手当り次第和くんが行きそうな所を回った。
闇雲に探しても見つかるわけないのに、その時の頭じゃそんな冷静な考えになれなかった。
気がついたらもう夜中…というか朝方になっていた。
周りはちらほら学校や会社に向かう人達が出てきてる中駅とは真反対の方向に走った。
夢中で探し回った身体は長時間外にいたせいで冷えきってしまって立ち止まって走るのをやめたら急に寒さを思い出して身体を抱き竦める。
「……どこ行ったんだよ…」
…まさかあの人の仕業じゃ…
一瞬最悪な想像をして、振り切るように頭を振る。
そんなわけない。
だって今あの人は……
「…っ、くそ…!」
握りしめた拳を壁に叩き尽きてじんとする痛みに顔を歪める。
早く帰ってきて。
笑ってみせてよ…
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