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過去の傷(玖音side)
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綺麗な目が大きく見開かれて僕を見つめる。
…いきなりこんな話引くよな…
でももう隠せない。話しておかないと何かあった時に傷つくのはきっと和くん。
だったらこのタイミングで話しておいた方が浅く済む。
…それが幸せなのかも。
もっと早くこうするべきだった。慣れてしまう前に…
「父親だなんて思ってないけど…血の繋がりって厄介だよね」
そう自傷気味に笑えば和くんはなんとも言えない顔をした。なんて声掛けていいかわからないんだろう。
幸せな日常に慣れてずっと忘れてた過去の記憶を思い出しながら口を開いた。
_______
両親が共働きで夜家にいなくても気がついたら一人で料理も選択も掃除も出来るようになってた中学に上がったばかりの頃。
年相応のクソガキで馬鹿なことして笑うような普通の中学生だったと思う。
母さんはとても明るい人で僕達兄妹に対しても理不尽に「お兄ちゃんなんだから」みたいな怒り方をしない年の割に若く見えて綺麗な自慢の母親だった。
あの人に関しては…あまり一緒に遊んだ記憶が無い。いつも家にいない人だった。けどそれは仕事でいないってことで普通なんだと思ってたから特に気にしたこともなかった。
だから初めて事実を知った時は驚いたなんてものじゃなかった。
「……母さん…?」
ガシャン、とガラスが割れる音。
ある日台風か何かで学校の授業が早く終わっていつもと違う時間に家に帰宅してリビングで倒れてる母さんを見つけて血の気が引いた。
辺りにはグラスの破片が散らばっていた。
「母さん!」
「…ぅ…」
床に蹲ってる母さんのそばに寄って苦しそうに咳き込む背中をさする。
その時にやっと気づいた。
リビングのソファーに何の関心も向けることなく座って携帯を弄ってるあの人がいたことに。
「…とうさん…」
「……なんだ玖音、学校サボったのか?」
子供ながらにその異常な空気に寒気がした。
なんで。母さんが倒れてるのになにしてんだこの人は…
何もわからない、なんて歳でもなかったから直感で理解した。
急いで母さんの服の袖を捲ったり見えるところを見てみたらアザがいくつかあって疑念は確信へと変わる。
気が付かなかった…いつから?
これも、これも…今日出来たものじゃない。
「…父さんがやったの?」
「……」
信じられなかった。
授業で自分には関係の無い話だと思って見てたビデオを思い出す。
『DV』そんな言葉が頭を埋めつくした。
瞬間許せなくて子供の力なんてたかが知れてるのに掴みかかった。
「ふざけんな!何してんだよ!」
「…あ?」
心底面倒くさそうな顔をしてぐっと胸ぐらを掴まれて身体がよろめく。
反射的に見上げたら手が振り上がって殴られると悟って目を瞑った。
「やめて!!」
けど衝撃は来なくて気がついたら母さんに抱き寄せられて腕の中にいた。
「子供には手出さないって約束でしょ…!」
「……っち…」
母さんが震えながらそう言うとバツが悪そうに舌打ちをして乱暴に家を出ていった。
すぐに母さんの肩を掴んで揺さぶった。
「なんだよあれ!いつから…っ、」
「…大丈夫」
「なわけないだろ!あんなの暴力じゃん…警察とか…」
「玖音!」
母さんが僕の手を握った。
「…いい?誰にも言っちゃダメ。わかった?」
「どうして…!」
「お願い」
じっと見つめられて、母さんの真意もわからなくて、頭が混乱して…頷くことも横に振ることも出来ないでいた。
「…いつから」
「…時々、仕事とかでイライラするとああなるのよ。だから大丈夫。あなた達には何もさせないから」
母は強いってこういうことを言うんだろうか。
普通の家だと思ってた自分の家族がこんな問題を抱えてたなんてこの時まで全く知らなかった。
…なんでもっと早く気づけなかったんだろう。
もっと早くわかってれば母さんを守れたのに。こんなアザを作らなくても済んだかもしれないのに。
「たっだいまー!」
直後に当時まだ小学生だった時音も帰ってきて玄関から時音の声が聞こえた瞬間母さんはいつも通りに笑って迎え入れてた。
そこで母さんはずっと無理してたんだって気づいた。
僕達に何もされないように、心配かけないように、一人で抱えてたんだ。
この時決めた。
あの人がいなくても大丈夫なように、僕がしっかりしないとって。
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