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.(玖音side)
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それから中学の間は死ぬほど勉強した。
推薦で特待生で授業料免除の高校に行けるようにするために必死で。
多分今までの人生の中で一番机に向かってた時期。
時音は小学高学年で一番下の妹の音羽は小学生になったばかりでまだ幼い二人には父親の本当のことは言えなかった。
あの人は相変わらず家にはいない人でたまに帰ってくればみんなの前では『いい父親』を演じていた。
世間的にはいい会社に勤めてて、家庭も持っていて人当たりも良くて、とてもDVなんてしてるように見えない外面を持ってて僕もそれを信じてた。
あの日までは…
頭がよくでずる賢い人。
母さんや妹を守れるようになりたい。そんな力が欲しい。
早く大人になりたいと強く願った。
離婚すればいいなんて思ったけどそう簡単にもいかないもので離婚して母さんだけの収入だけで子供を三人も抱えて生活するのは難しいってことは何となく理解していた。
だから少しでも早く僕が、なんて格好つけた事を考えてた。
「___ちょっといいか?」
「はい」
そんな努力もあったからか中学三年の夏頃に先生から進路について特待生制度の紹介をされて僕は迷わずそこに行くことにした。
特に行きたいところなんてないし少しでも負担が減るならそれに越したことはない。
母さんに言ったらとても喜んでくれた。
きっと僕が行きたいといったらどこにでも行かせてくれるつもりなんだろうけどもうこれ以上母さんに我慢させたくなかった。
だからある決断をした。
「母さんと離婚して」
「…あ?」
母さん達は買い物で外に出ていない、二人きりの時に。
正直めちゃくちゃびびってたけどこれしかないと思った。
…証拠がないとこの人を切り離すことが出来ない…
「これ以上母さんに何かするなら僕が許さない」
「…はは、お前に何が出来んの?ガキのくせに偉そうなこと言うなよ?」
もう僕の前では裏を隠すつもりもないらしい。
「DVって暴行罪とか傷害罪になるの知ってる?」
「無駄だよ、世間じゃ俺の言葉とお前の言葉じゃどっちの方が信用があるかわかるよな」
そう、頭のいい人だから母さんに対する暴力も頻繁じゃない。見えないように目立たないようにじわじわと痛めつける…
簡単に尻尾を出さないってわかってた。
あと暴行罪とかの罪に問うためにはある程度物的証拠とかが必要らしい。ただの痴話喧嘩だと言われてしまえば注意で終わってしまうこともあるって調べた。
…だから少しずつ集めてた。
「これでも言い逃れ出来んのかな」
前に使っていた古いスマホを取り出して録音した音声を流す。
それは、この人が母さんに暴力を振るった時の音声が入ってた。
流石にびっくりしたのか顔色を変える。
学校に行ってる間や寝てる間に毎日仕掛けていたもの。母さんには悪いけど…ずっと見て見ぬふりをして証拠を掻き集めてた。
母さんのアザの写真も撮ってある。病院の診断書もある。
「これ…出したらまずいよね」
「…へえ」
自分のこういうところはこの人に似たんだろう。本当嫌になる…
「母さんと離婚してくれるなら何もしない。これも捨てる。…だからもう二度と関わんな」
世間体を気にする人だからこれで大人しくなってくれるだろう。その考えが甘かった。
「ッ?!」
突然身体がすごい勢いで傾いて次の瞬間に鈍い痛みが腹に伝わって息が詰まった。
初めて殴られた。
母さんはこんなのに何年も耐えてたってのか…?
「っは…っげほ…っ!」
「調子に乗るなよガキが。俺がいなくなったら生活出来なくなるのはお前らなんだよ」
「…っ、…いらない、いなくたって…!」
ぐっと手の中にあるスマホを握りしめて睨みつける。これを取られたらまた同じ日々の繰り返し。
負けたくない。
こんな奴でも母さんが別れないのはきっとまだ心のどこかで信じようとしてるからだと思う。
…母さんには悪いけど…もう今しかない。
「それ渡せ」
「渡すかよ…今の会話も全部撮ってある、逃げらんないだろ…」
「…へえ」
冷たい声。
僕の上を跨いでどこかに姿を消す。
逃げるのかと思って起き上がって追いかけようとした足が止まった。
手には鋭く光るものが握られていた。
嫌な汗が流れて心臓の鼓動が早くなる。
直感的にやばいと悟った。
「渡せるよな玖音」
初めて人を心底怖いと感じた。
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