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.(玖音side)
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じりじりと距離が詰まる。
怖くて逃げ出したい気持ちを抑え込んで自分を奮い立たせる。
けど…どうする。
ただの脅しだとしても下手に刺激するわけにもいかないし…
今だけ渡しておくか…?これだけならまだ他のものでなんとか…
「ただいまー」
その時玄関の方が騒がしくなって僕もあの人もそっちに視線が奪われた。
「…っ!」
一瞬油断したのを見逃さなかった。
腕が下がった瞬間に掴みかかって腕を抑えつける。
「この…離せ!」
「ッ、」
背中を殴られたけど絶対離れるわけにいかない…
リビングの騒ぎに気づいてバタバタと激しい足音が近づいてドアが開いた。
僕らを見て母さんが声を上げる。
「何してるの…!」
「来んな!!」
近寄ってくる母さんに対して怒鳴りつける。
後ろに付いてきた時音と音羽がいてそれに頼った。
「っ、時音!音羽と母さん連れて外出てろ!あと警察呼べ!」
「え…っ、う、うん…!」
時音はああ見えて意外と冷静だからこの状況でもすぐ僕の言葉を飲み込んでその通りにしてくれた。
これで大丈夫…そう思ったのに母さんは時音の制止を振り切ってこっちにきて僕らの揉み合いに割って入ってきた。
「やめて!!離れてよ!!」
「…っあ〜うぜえ…」
イラついた様に顔を顰めて母さんを突き飛ばして僕も突き飛ばされる。
机の角が思い切り背中に当たって色んなとこが痛んですぐ起き上がれなくて身体をゆっくり起こして目の前の光景に固まった。
母さんに向かって鋭く光るものが降りかかる____
「かあさ…っ」
____次の瞬間には走り出して母さんに覆いかぶさっていた。
「…ッ…」
じわ…っと熱い感覚が背中に広がる。
痛み、というよりは熱くなる様な感覚。
「玖音…!!」
「おにい!…も、もしもし!警察ですか…!」
「…くおにい…?」
母さんに揺すぶられて、時音が泣きそうなのを我慢して電話をして、まだ小さい音羽が戸惑ったように立ち尽くしてて…
あの人は流石にここまでやるつもりはなかったのか焦って後退って家から飛び出して行くのが見えた。
ああ、追いかけなきゃ。
そう思うのに思うように身体が動かなくてなんだか笑えてきた。
ダサすぎる…かっこ悪い。結局自分一人じゃ何も守れなかった。
「いや…嫌、玖音…!」
「おにいしっかり!すぐ救急車来るから…!」
何となく血が流れ出てる感覚がわかってぼやける意識の中で頷いた。
そのうち辺りが騒がしくなって…
プツン、と意識が途切れた。
次に目が覚めた時は病室のベットで、周りに母さんや時音がいてめちゃくちゃに怒られた。
なんでこんな無茶したんだとかなんで黙ってたとかそりゃもう怪我人にいう言葉とは思えないくらい責められて可笑しくて笑った。
音羽はまだよくわかってないのか「くおにい早く元気になってね」って屈託のない笑顔で笑うからその笑顔に救われた。
その後先生から聞いた話だけど果物ナイフだったからよかったけど普通の包丁だったら危なかったと言われてようやく怖かったんだと感じた。
あの後時音が呼んでくれた警察が来てくれたらしく僕が刺されてたのもあったし母さんや時音が目撃してたのもあってあの人の会社や家周辺を捜索して数日後に連行されたらしい。
僕は時音に今までの話をして集めておいたDVの証拠を警察に持っていくように頼んだ。
今までの事実に驚いていたけどしっかりと頷いて病室を後にした。
強くて頼りになる妹。
病室に母さんと二人きりになって手を握られた。
「…ごめんね玖音…」
「なんで母さんが謝るの」
「母さんが弱いから…もっと早くこうするべきだったのに」
「…いいよもう、わかってるから」
震えて泣いてる母さんの肩をさすった。
このことがきっかけで母さんはあの人と離婚する決意をしたらしい。
やっぱり何処かで好きな気持ちは残ってたんだろう。いつかなくなると信じて待つのは…どれだけ辛かったんだろう。
今回の傷害事件と今までのDVの疑いもかかってしばらく出てこれなくなったらしいから弁護士を通して離婚の手続きが済んだ。
今後関われないように接近禁止命令も出されて安心できる日常がやっと訪れた。
時音も理解してくれて、音羽はまだ小さいからよくわかってないみたいだったけど相変わらず明るく笑っていてくれた。
妻への暴行罪、息子への傷害罪。
これが父親が起こした罪。
テレビのニュースにもなって一時期凄く住みづらい思いをしたのを覚えてる。
けど時の流れに沿って記憶も薄れるものでしばらくすると騒ぎ立てるのもなくなった。
そして時は流れて僕は17歳の高校二年生、
時音は中学二年、音羽は小学三年になる。
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