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願うのは。(若菜side)
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ケーキセットが安くて美味しいところが出来たらしいから行こう、そう誘われて少し遠くまで出かけた冬休み。
「あ、ごめんなさい」
「いえ、こっちこそ…」
男の子たちとすれ違った時にぶつかりそうになって顔を上げて息が止まった。
それは向こうも同じで大きく見開いた目が私を捉えた。
…和…
少しだけ目線が上になって相変わらず服が好きみたいでお洒落な格好をして大人っぽく見えたけど見間違えるはずなんてない。
別れて、何も言わずに目の前から居なくなってしまってからもずっとずっと心に残っていた…忘れられない人。
______
「…行きたくないなあ」
第一志望だった高校に落ちて滑り止めで受けていた高校に通うことになった一年前の四月。
一番行きたかったところに行けなくてしばらくは落ち込んでいたけれど、通い始めてその憂鬱は段々と薄れていっていた。
和に出会ったから。
教室に入ってすぐに人気があるのは何となくわかった。
中学の同級生が多いのか、もう友達を作ったのか。彼の周りは緊張で溢れてる教室の中ではいい意味で浮いていた。
そんな和と出席番号的に隣だと知ってちょこんと座る。
…周り誰も知らないから不安だなあ…
友達作るのが苦手ってわけじゃないけど受験に落ちたばかりでネガティブな思考に囚われて俯いていたらトントンと肩を叩かれた。
つつかれた方を見るとさっきまで教室の端で周りと話してた和が首をかしげていた。
「ねえねえ、入学前課題ってさノートで提出なんて言われてたっけ」
「え…ううん、そんなこと言ってなかったと思うよ。わたしはプリントに直接書いたし…」
「だよな!あーよかった…みんなノートに書いてるから焦ったー」
安心したのか背もたれに身体を預けてんーっと伸びる。
…ていうかノートだったっけ?あれ、大丈夫なはずだけど…
「もしノート指定だったらごめんね?」
一応保険を掛けておくと「んー?」と横目で見てくしゃっと笑った。
「大丈夫、もし違って怒られるとしても君も一緒だしね」
「…何それ」
悪戯っ子みたいな笑顔をした和が、可愛いなと思ってしまった。
案の定ノートにやるタイプだったらしくプリントにやってきた人達は軽く「次から気をつけろよー」って言われたくらいで済んだけど、和と顔を見合わせてくすくす笑った。
和が話しかけてくれたから周りにいた人たちとも話すようになって、落ち込んでた気持ちはなくなって純粋に高校というブランドに胸が踊った。
いい奴だな、って思った。
けど数週間が過ぎてクラスや授業に慣れてきた頃に、和が「そういう関係」を沢山持ってるってことを知った。
わたしはそういうの疎いし、身体だけなんてありえないって思っていたけど和がそういう奴だってわかったからって言って嫌いにはならなかった。
…というか、なれなかった。
「和ってさ、なんで彼女はいないの?」
「別に好きな奴なんていないし…好きでもないのに向こうに気持たせたら可哀想だから、後腐れなく割り切るやつじゃないとしない」
…なんだそりゃ。
真面目なんだかよくわかんないな…
ふーん、と聞いてはいたけど頭の中は和の言葉でいっぱいだった。
「好きな奴なんていない」って…
じゃあこの後も好きな人なんて作らないで身体だけ重ねて、ずっとそんなのを続けてくのかな。
そう思うと胸がズキズキした。
それから和が女の子と歩いてるのとかを見るとチクチクして、惚れてたんだって気づいた。
でも絶対和とはセフレとかにはなりたくなかった。
きっと好きな人を作ろうともしてない和に…わたしはただの友達としてしか接せない。
だったら友達としての一番近くに居てもいいかな…
なんて思って柄にもなく和に今まで以上に関わっていった。
多分うざかったろうな…って今は思う。その時はなりふり構ってられなかったんだろうなあ。
そしてある日怠そうに「俺のこと好きなの?」と腕を掴まれて言われた。
すぐ否定すればよかったのにそれも出来なくて固まってしまってると和が「え?」みたいな顔をした。
冗談で言ったつもりだったんだろう。
その顔を見て我に返って思いっきり引っぱたいて逃げてしまった。
全力疾走して、電車に飛び乗って、家に帰ってやっと落ち着いて座り込む。
「…何してんの…わたし」
らしくない。
周りからも自分でもサバサバしてて女々しくないって思ってたのに…あんな、感情的になってどうしていいかわからなくなるなんて。
明日からどんな顔で会えばいいの…
恋愛に左右されるなんて思ってもなくて、そうなって初めて思ってた以上に和の事が好きになってた事に気付かされる。
あんな遊んでるような人好きになるなんて…苦しいだけなのに。
好きになっちゃった…
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