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しばらく歩いて学校からすぐの小さな公園に辿り着いて隅の古びたベンチに座った。
沈黙が流れて、勇気を出して口を開いた。
「…何もされてないか?」
「…え?」
ずっと不安だったこと。
若菜の携帯から桃瀬の連絡が来た時点で何かされてるんじゃないかって思ってたからまずそれが心配で。
「…うん、私は何も」
「…そっか、ならよかった」
彼女の応えにホッとして胸を撫で下ろす。
桃瀬…どうなったのかな。玖音がネックレス持ち帰ってきたってことは接触したんだろうけどその後の事知らないし…なんて考えていたら若菜の方から「透のことなんだけど」と話題を振ってくれた。
「…学校やめたみたい」
「え?!」
やめた?!
流石に予想してなかった言葉で思わず大きい声が出た。
何、玖音辞めさせるようなことしたの?…若干想像出来なくもないのが少し怖くて苦笑いを浮かべる。
「そっか…まあ、若菜にも手出される心配なくなるし…よかったんじゃない…」
俺的にはありがたいけど若菜は浮かない顔をしていた。
…そりゃずっと友達だって信頼してた奴だからダメージは俺なんかより遥かにでかいか…
「ねえ和」
「ん?」
不意に名前を呼ばれて横を見れば身体をこちらに向けていて雰囲気が少し変わった気がした。
「…今付き合ってる人って…さっきの人?」
その質問に思わず固まった。
若菜の言う「さっきの人」があの三人の中で誰を指してるのか、
でも多分若菜が想像してる人で合ってると思った。
ちゃんと言おうと思ってたから俺も向き合って目を見て頷く。
「…うん。そうだよ、…引いた?」
くすっと自傷気味に笑えば一生懸命首を横に振って「そんなことない」ってそう言ってくれる彼女が優しくて温かい人だと再確認させられる。
やっぱり俺が知ってる中で最高な女の人だったな…
だからこそ幸せになって欲しい。
「…今回のことも、知った上でそばに居てくれて守るよって言ってくれて大切にしてくれてる。だから俺もそれに応えたいって…つか俺がそばに居たいだけ」
「…好き、なんだね」
その言葉に何のためらいもなく頷いた。
「うん。めちゃくちゃ好き」
真っ直ぐ見つめたまま伝えたらふっと若菜が笑って立ち上がって俺の少し前を背を向けたまま歩きだした。
「…なーんだ、意外と元気じゃん」
足元にあった石をコン、と蹴って浅い雪の中に埋まる。
「もっと傷ついて落ち込んでるって思って支えなきゃって思ってたけど…和はもう自分で立ち直ってて。…進めてないのは私の方だったね」
「…若菜…」
心做しか声が震えてる気がして名前を呼んだら空を仰いだ後に振り返った。
息をするのを一瞬忘れた。
その時の彼女の笑顔はきっと忘れないと思う。
今まで見てきたどの場面よりとても綺麗だった。
「潔く振られちゃった」
「……」
「この間は和が言ってくれたから私からも最後に」
そんなセリフを明るく笑顔で、ふざけたように言うから胸が締め付けられる。
「私のせいで傷つけちゃってごめんね。
優しくしてくれてありがとう。
…あの頃からずっと今まで大好きだったよ」
くしゃっと目を細め俺に向かって軽く敬礼して笑うのが彼女らしくて
最後まで俺を心配させないように振る舞う気丈さに、強さに、そういう所が好きになったんだろうと思った。
そんな若菜を見つめたまま何も言えなくて動けなくてただ目を逸らせないでいた。
「和が幸せでいれますように…ばいばい」
俺と同じ、
幸せでいて欲しいと思える相手、
背を向けて歩き出す若菜の後ろ姿に自然と声が溢れた。
「…俺も!若菜に幸せになって欲しいって思ってる…だから、だから…またいつか会えるよ」
ぴた、と足が止まる。
俺も若菜もお互いもう連絡しないつもりだろう。
けどもし会う時がきたらその時はお互い幸せになった証にまた再会出来るって思った。
「一生会えないみたいに言うなバカ」
「…何よ、かっこよく去ろうとしてるのに水刺さないでよ」
立ち止まって肩を震わせる若菜に軽く雪玉を投げた。
見事髪の毛にヒットして笑ったら目元を赤くして睨んできて雪合戦が始まる。
楽しくて今までと少し違う気持ちで向き合えた。
「冷て!!ちょ、容赦ないのかよ!」
「先に吹っかけてきたのそっちでしょ!」
バカみたいに騒いで笑って確信する。
いつかこの痛みも全部あの頃は懐かしいねって笑い合える日が来ると。
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