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玖音が帰ってくるまで何をしてたか自分でもよく覚えてない。
落ち着かなくてソワソワして、部屋を無駄に歩き回ったり俺より片付けとか料理とか出来るやつだから特にやれることもなくてずっと上の空だった。
…聞きたい、けど…玖音に嫌な思いはさせたくない。
思い出して苦しめてしまったらどうしよう…
そんな二つの気持ちの間でずっと悶々としてると玄関の方から音がして背筋がビクッと伸びてその場に何故か正座で座り込んで待ち構えた。
ドアが開いて見慣れた笑顔が現れる。
「ただいま」
「お、かえり」
けど俺を見て少しだけ驚いたような顔をして首をかしげた。
「…どうしたの、何かあった?」
…本当鋭くて困る。
言ってしまおうか。
時音ちゃんが言ってた「全部知ったら」って何?何を抱えてるの?…俺じゃ頼りない?
喉まででかかった声を
…全力で飲み込んだ。
「…何でもない。それより飯食べよ」
にこっと微笑んで見せてキッチンへ向かう。
いざ本人を目の前にすると何も聞けなくなった。意気地無しだな俺…
玖音に嫌な思いさせたくないってのもあるけど、結局は自分が知るのが怖いっていうのもあった。
…何も知らなくたって、充分幸せじゃないか。
玖音が好きだと言ってくれて、一緒にいてくれるんだから。
「和くん」
そう言い聞かせてるとキッチンに入る直前に名前を呼ばれて足を止める。
ゆっくり振り向いたらカバンをソファーにおいて俺に向かって腕を広げた。
「おいで」
全部受け止めてくれるみたいに優しくそう言われて胸がきゅって締め付けられて近づいたらすぐに抱き寄せられて腕の中に収まった。
温かくて優しくて大好きな場所。ゆっくり背中に腕を回して顔を埋めた。
しばらく抱き合ってると玖音が身体を離して俺の腕を引いて寝室に連れていかれた。
(…するのかな…)
何となくそう思ったけどベットの淵に座らされて横で同じように座り込むとしばらく沈黙が流れた。
電気がついてなくて薄暗い窓からの光だけで不思議な雰囲気に包まれる。
そしていきなり玖音が口を開いた。
「誕生日は8月7日。血液型はA型。好きな食べ物はハンバーグで嫌いな食べ物は…野菜?」
「え…」
…いきなり何だ?
意図がわからなくて混乱してると更に続いた。
「さっきの時音以外に今年中学生になる妹がいて三人兄弟。身長は…」
「ちょ、待って待って!」
突然始まった自己紹介を慌てて遮る。
玖音と目が合うと少しだけ弱々しい顔をして微笑まれて頭を撫でられた。
「もっと聞きたいことあれば聞いていいよ」
そう言われてハッとした。
…きっとさっきの階段で話した時点で気付かれてた。
俺が玖音のことを知らないことに対して不安を抱えてたこと。
だからきっと今日こうやって一緒にいることを選んでくれたんだと思う。
やっと階段でのいつもと違う雰囲気の意味を理解して何も言えなくなってしまう。
「…あの…」
「うん」
ここまでしてくれたのに、今更やっぱり何でもないなんて言えない。
意を決して口を開いた。
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