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「ぐふ!」
「……やべ」
だが、その拳は青年の元まで届かなかった。間合いに入ったリクトが男の顎を殴り上げたからだ。やっちまったと思った時には、空中に吹っ飛んだ不良が大きな音を立てて、地面に打ち付けられていた。
「お前……」
「あー。その……」
リクトは言いずらそうに目をそらし頬を掻く。青年は強かったし、助ける気はなかった。だが、彼が危ないと思ったら、勝手に体が動いていたのだ。
正直に言っていいのか、はたまたなにか言い訳でも見繕っておいた方がいいのか。訝しげに睨んでくる青年に、なにか言おうとした瞬間。
ーーぐ〜。
「……」
「……」
それよりもお腹すいたという体からの訴えが、静かな空間でやけに大きく響いた。
「っ〜!」
恥ずかしい。滅茶苦茶恥ずかしい。徐々に顔へ血液が上がってくるのが分かり、余計何も言えなくなるリクト。そんな裏路地の静寂を次に破ったのは。
「ぷっ、あははははは!」
青年の大笑いだった。余程ツボに入ったのか、腹を抱えて笑い始めている。
「笑うな!」
「だって、お前……あははははは!」
恥ずかしさを隠すようにリクトは青年に殴り掛かるが、避けられた。しかも、まだ笑っている。
「いい加減にしねぇと本気で怒るぞ!」
「わりぃわりぃ」
笑いすぎで出た涙を拭いながら、青年は謝るが、未だに顔は緩んでいる。
「はー。笑った笑った」
「笑い過ぎだ」
「わりぃって。あと、助けてくれてありがとうな。礼と言っちゃなんだけど、飯奢ってやるよ」
「あー。わりぃ。ツレがいるんだ」
「なら、ツレも一緒に奢ってやる」
「いいのか?」
「1人前も2人前も変わんねぇよ。それに、返せる借りはその場で返す主義なんでね」
そう言って笑う青年に、リクトは素直に頷いた。奢ってくれるというなら、奢ってもらおう。
「なら、お前のツレ向かえに行こうぜ。こんな所、長居は無用だしな」
「そうだな」
「あ、まだ名前言ってなかったな。鉱透琉(あらがね とおる)だ。苗字は呼びづれぇだろうから、名前でいいぜ」
「俺は天音リクト。俺も名前でいい」
「分かった」
言いながら歩のいるお店へ向かうと、丁度フィギュアを買えたらしい彼が店舗から出てきている所だった。きょろきょろと辺りを見回した後、リクトに気が付くと、嬉しそうに手をあげる。
「リクト! 無事買えました!」
「そっか、良かったな」
「はい!」
「ん? マジカルみーな♡かそれ」
「もしかして、知ってるのですか!?」
「ちょっとまぁ、色々あって。可愛いよな」
透琉がそう言った瞬間、がしっと彼の両手を掴む歩。その瞳はキラキラと輝いている。
「この可愛さを分かってくれるとは! お主、同志でありますか!」
「アニメとかマンガとか、そういうのは好きじゃねぇ。寧ろ喧嘩の方が好きだ」
「そう……ですか」
明らかに落ち込んでしまった歩に、悪いと思ったのか、透琉はあー。と言葉を濁したあと、再び口を開く。
「けど、まぁマジカルみーな♡に関してはそれなりに知ってるから、話し相手くらいにはなれるぜ」
「な、なんとお優しい!」
手を握りながら、泣き出す歩に、透琉は引き攣り笑いを浮かべる。助けてくれとリクトへ視線を送りながら。
「歩、そろそろ離してやれよ」
「これは失礼。……で、この方誰です?」
「今更だなおい!」
リクトがツッコミを入れるのは致し方ないだろう。既に透琉と歩が初対面して数十分経っているのだから。
同じものが好きとわかれば、その好きを共に分かち合いたいという思いひとつで全てを越えていく。その心意気は、あっぱれとしか言いようがない。好きだからこそ、なのだろうが。
「俺は鉱透琉。透琉でいいぜ。今さっきお前のツレに助けられてな。お前と2人分の飯奢る約束になってんだ」
「俺は水戸歩です。呼び方はどちらでも」
「なら名前で」
「はい。よろしくお願いします」
「よし、じゃ行くか」
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