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「うっせぇんだよ!!」
腕を一閃。母親は床に伏す。…あ~、ムシャクシャする。
「…さっさとくたばれ、ババア!!」
白摩が高笑いをした、途端だった。母親がう゛っと低く唸って、頭を押さえ出す。白摩はすかさず、人差し指で母親を指して笑い出す。
「ハイ、仮病乙~!!…んなんで騙されるわけねぇ~じゃん。ほんっと知能低いな。バァァァカッ!!」
叫んでも、母親は頭から手を退かさない。苦悶の表情を浮かべたままだ。何してんの、コイツ。半笑いで白摩が考えた、直後。
「…ぅ…っ」
母親の上半身が傾いで、床に崩れ落ちる。俺は顔色を変えた。
「お、い…。おい…??」
咄嗟の事態に、真顔で母親の頬を平手でぺちぺち叩く。直感でわかる。演技なんかじゃない。
母親に…たった一人の信頼できる肉親に何かが起きた。
「おい、おい!!なぁおい、ババア!!目ェ覚ませって!!ババア!!」
白摩は腹の底から怒鳴る。けれど、幾ら問いかけても母親の目はかたく閉じられたままだ。震えが止まらない手で携帯を取り出す。救急車を呼ぶ。…気が動転していて、何を喋ったか全く覚えていない。それでも、救急隊が駆け込んだのは記憶に残っている。
白摩は床にへたり込み、呆然と倒れた母親と辺りに散らかった皿たちを眺めていた…。
自傷癖がついたのは、中学生の頃だった。
母の裏切りを見てしまった白摩は、家にいるのも辛く、どこにも居場所がなかった。唯一、心の拠り所としていた佐々は、部活が忙しく、隣家だというのに俺と連絡をとるのも難しくなっていた。
一人は寂しくて、辛くて、息が詰まった。ネットや学校の噂でリスカの存在を知って、馬鹿馬鹿しいと思っていたけれど、白摩は結局手を出してしまった。
手首にピリリと走る痛覚。引きこもりの真っ白な肌に濃く赤い線が滲む。気づくと、白摩は興奮で目がカッ開いていた。死にたい。死にたい。死にたい。手首に刻まれた赤い紐が、まるで死者の証に見えた。このまま、或いはもっと深く切り込めば楽になれる。こんなクソみたいな世界とはおさらばできる。考えただけで、胸が高鳴り、恍惚とした。
リストカットの現場を見られたのは、佐々が初めてだった。母親から白摩の成績が危ないと聞いて、アポなしで勉強を教えに来た。部屋に飛び込んだら、白摩が手首にカミソリをあてている途中で、佐々は血相を変えて飛び込んできた。文化祭の頃だったから、十月くらいだと思う。佐々は、リストカットがバレて肩身の狭い幼馴染の前で大いに号泣した。続けて、幼馴染に小一時間説教をした。あの頃、ド健全な部活一本の佐々にとって、白摩の行動は軽いカルチャーショックを与えたのだろう。
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