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以来、白摩は自傷行為を習慣にはしなかったものの、ことあるごとに自殺しようとした。結果、睡眠薬の過剰摂取で入退院の繰り返し。
…一度は引きこもりにふさわしくない首吊りを望んだが、公園で木の梢にロープをかけている時点で巡回中のおまわりに呼び止められ、下手するとお縄になるところだった。
白摩が自殺をする度に幼馴染は泣いて、怒ってうんと叱る。また同じことをしでかすだろう白摩をそれでも必死の形相で叱りつける。
…ほら、今だって佐々は真剣に怒ってくれる。
「…る、…はる、ハル、ハルッ!!」
うっすらと重い瞼を押し開けると、そこは浴室だった。白いタイル。楕円形をした水色の蓋が半分外れている浴槽。浴室に充満している湯気。浴槽の湯は真っ赤に染まりきっている。何故なら、病院から帰ってきた足で白摩はさっき手首を切って、湯を張った浴槽に腕を突っ込んでいたからだ。
「ハル、ハルッ!!しっかりしろ、何があった!!」
白摩を胸に抱き起こした幼馴染は、気のせいか。いつもより輝いて見えた。湯けむりで多少見えにくくなっているからだろうか。…ふと、白摩は幼馴染の違和感に気がつく。あー、なるほど。コイツ、スーツだ。男前があがるわけだ。
「…卒業式に来ないと思って、家にあがったらリビングは酷い有様だ。浴室から音がしたと思ったら、お前が伸びているときた。おい、ハル!!聞こえているか、ハル!!命は天からの授かりものなんだぞ!!ハル!!」
緩く揺さぶられ、ようやく目の焦点が定まる。切ったはずの手首に目をやる。…何度目かの経験で、止血は完璧に施されていた。白摩の視界が、こみ上げてきた熱い雫で急速に曇っていく。
鉛みたいに重たい唇が、ぎこちなく開く。
「…あのクソババア、近い内にくたばるってさ。」
ふん、と鼻を鳴らすと同時に佐々が呼んだらしい救急車の音が近づいてくる。
「ほんっとう、いい気味!!」
声をあげて笑おうとする。顔の筋肉は笑っている。だけれど、どうしてか。口はからからで、笑顔はどこかぎこちなさを捨てきれずにいた。
母が担ぎ込まれた病院の一室。看護師に呼ばれた白摩は、医者に病状を説明された。母親が脳の病気であること。進行が進んでいて、現在の医療では薬による苦痛の緩和しか手が残されていないこと。薄ぼんやりと白いレントゲン写真を示して、わかりやすく喋ってくれたけれど、細かい話は全く耳に入ってこなかった。
とにかく、母親が助からないのだけはわかった。白摩は噎び泣きながら、医師から受けた説明を伝えているところで、幼馴染の胸の中で意識を手放していた…。
次に意識が戻ると、そこは薬品の匂いがそこはかとなく漂う、四方が白い部屋だった。
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