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部屋には、ベッドと小型テレビ。枕元にあるデジタル時計は、午後一時過ぎと表示している。
出入り口付近にある扉は、トイレに通じている。入院常連の白摩にとって、うんざりするほど見知った場所だった。
「…気がついたか。待ってろ。今、ナースさんを呼びに行くから。」
ベッドの傍らに佇んでいた佐々が、身を翻そうとする。白摩はすかさず、切っていない方の手を伸ばして幼馴染の服の裾を掴む。
(ひとりに、しないで。)
「…うん??」
こちらを振り返る佐々に、怪我人は口を布団に埋めてもそもそと喋る。
「…あの、ババアは??」
ババア、の呼び名を聞いた途端。にわかに佐々の顔色が曇っていく。
「…おばさんのこと、きちんと呼んであげなよ。」
「春代。」
「…本名を呼び捨てにするのもナシ。」
ったく、と軽く肩を上下させ、佐々は言葉を続ける。
「おばさんなら、まだ意識が戻らないみたい。お前と、同じ病院にいるよ。発作の処置は終わっているから、いつ起きてもおかしくはないそうだけど。」
ちっと舌打ちを一つする。しぶとい奴だ。
「さっさとくたばんねーかな。」
大声で叫ぶ白摩に、幼馴染は目をきつくする。
「…春太。」
白摩は何故か、幼馴染の怖い顔だけは正面きって直視できない。…すばやく目をそらす。
「だって、どうせ死ぬんだし。ババアも俺もさ。」
春太、と佐々が二人の手を重ね、こちらを見つめてくる。白摩は唐突なことにドギマギして、目が左右を彷徨う。
「どうしてお前は、おばさんを目の敵みたいに言うの??小学校の頃は、まだ仲がよかったよね??」
仲なんかよくない、胸の片隅で反発心が頭を擡げる。あれは、親子というより王様と従者だ。だが、口を開くより早く佐々の真摯な瞳に吸い込まれる。う、と言葉に詰まる。白摩は、彼の純度の高い瞳が弱かった。眺められると、嘘がつけなくなる。
「じ、実は…。」
白摩は訥々と、幼馴染に中学生の時目撃した母親の裏切りを打ち明ける…。
話を終えた白摩に、幼馴染は口を開く。
「前から言おうと思っていたんだけどさ。」
白摩は彼の台詞に反応して、ごくり、と唾を飲み下す。秘密を打ち明けた後、白摩の心は生々しく血の滲む切り傷と同じくらい神経質になっている。
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