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「…ハルは、許すことを覚えるべきだと思う。」
「ゆる、す…。」
吟味するように呟いた白摩は、一拍置いて唇を引き結ぶ。
「…何だよ。」
上半身を無理に引き起こして、ベッドにいる白摩は吠える。
「あのゴミ親より俺が悪いって言うのかよ!!」
「お前が悪いとは言ってないよ。」
佐々はいつになく神妙な表情で、幼馴染に語りかける。
「…でも、僕もお前も、もう中学生じゃないんだ。お前だって、他の人に走ってしまったおばさんの気持ち、わかるんじゃないのか??」
白摩は両腕を布団から出して、拳にする。
「わかるわけねぇだろ!!俺から逃げた母親を、許せっていうのかよ!!」
佐々は瞳を狭め、吐血するように俯いて叫ぶ。
「お前だって、逃げてばっかりじゃないか!!」
一瞬、白摩の思考が停止する。
「大学に入ってから…。いいや、ずっと前からそうだ。お前、なんか変わったよ。知り合ったばっかりは…子供の頃はもっといい奴だった。優しかった。なのに、どうして…。」
「人生勝ち組のお前に、俺の何がわかるんだよ!!」
出てけ、と叫んで白摩は手近にあった枕を投げる。宙を飛んだ枕は佐々の片頬に直撃した。被害者は枕を受けた頬に手をやったけれど、怒り出しはしなかった。
「…ごめん、ハル。」
佐々は狡い。白摩は、鼻をすんと鳴らす。真っ先に謝罪が出来る。純真な気持ちを持った佐々は何より愛おしく同時に憎い。
「僕も、おばさんが死ぬって聞いて動揺しているんだと思う。」
だけどさ、と佐々は喉の奥から声を振り絞る。
「…ハルは、許せる人だと思うから。」
「うるせぇっつってんだろ、殴られてぇのか。出てけよ!!俺に話しかけんな!!出てけ!!」
「…うん。」
佐々は少し悲しげに首肯を示すと、踵を返して病室の外へと出て行く。
一人きりになった白摩は、掛け布団を頭からすっぽりと被って声を押し殺して泣く。
三時間ほど経つと、目を真っ赤に腫らした白摩は呆然と自らが切った腕を眺める。真っ白い包帯でぐるぐるに巻かれた腕。いつ取れるのだろうと考える。すると、母親はいつ治るのだろうと答えなど存在しない疑問が生まれる。医師の声が耳に蘇ってくる。
『お母様は、いつどうなってしまうかわからない状態です。最悪の事態に備えて、出来るだけ、傍についていてあげて下さい。』
白摩は再び包帯に目を落とす。この包帯はいつか解け、少し傷跡のついた腕が帰ってくる。
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