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しかし、白摩の母親は二度と元通りにはならない。
白摩は小さく、俺は間違ってない、と呟く…。
『…ハルは、許すことを覚えるべきだと思う。』
許す、ってどうすれば良いのだろう。
真剣に考え、入院して三日目。午後二時きっかり。幼馴染は病院の中庭に白摩を呼び出した。
中庭は、見渡す限り青々とした芝生が広がっていた。楕円形に広がった庭に、ぽつぽつと植えられた木立が立っている。木立は両手を大きく広げるようにして枝を天高くに伸ばしていた。庭の小脇には、煉瓦道が続いている。煉瓦道の左右は、季節の花が植えられたプランターがあって、目に鮮やかだ。
病院寄りの場所に木製ベンチがあって、白摩はこれが大のお気に入りだった。深く腰掛けられるし、天を仰ぐと蒼穹が眺められた。けれども、今日はあいにくの曇り空だ。
それでも、中庭にはちらほらと人気がある。足腰の弱い老人は少ないが、パジャマ姿の子供たちは何人かいる。皆、木々や花々を眺め、ゆったりと喋っている。
誰も走り回らないのは、きっと激しい運動ができない子供たちだからだろう。だけれど、彼らは実に楽しげにお喋りに興じている。
白摩は子供たちを遠巻きに見ながら、ふんと鼻を鳴らす。自分が幼馴染に言った台詞を思い出していた。
『だって、どうせ死ぬんだし。ババアも俺もさ。』
人は、いつか死ぬ。死ぬ世界に、中庭にいる少年少女たちは誰より近い位置にあるだろう。小さな身体。もしかすると、先天的に病を患い、一生病院暮らしを宣告されている者がいるかもしれない。
彼らは、一度として親を責めなかったのだろうか。死んで楽になりたいと望まなかったのか。白摩は小首を傾げる。死ねば、楽になれる。こんな煩わしい肉体なんて、とっとと捨ててしまえばいい。
死を考えていると、定期的に聞こえてくる医師の声が耳に蘇ってきた。
『お母様は、いつどうなってしまうかわからない状態です。最悪の事態に備えて…。』
(最悪の、事態…。)
暗い思考に入りそうになる頭をどうにか止めたくて、左右に振る。思いつきで、口を開く。息を吸う。中庭の空気は、少々湿っぽくて何だか偉く冷たく感じた。
「~♪」
歌を口ずさめば、白摩の頭はすぐに空っぽになる。歌に魂が移り込むからだ。
子供のことを考えていたから、ついつい選曲が老若男女問わず人気のある、国民的アニメのオープニングになってしまった。暇つぶしだとハミングしていたら、あっという間に子供の人垣が出来ていた。目を丸くしている白摩に、子供たちは次々に叫ぶ。
「兄ちゃん、すっげぇ歌うめぇな!!」
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