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白摩は幼馴染の家の玄関先で目を丸くする。佐々とは、あまりにも縁遠そうな物騒な単語だ。
「リサイタルが中止になった後、バンドメンバーと一緒にギター君を探して…。見つからなくて、あの子はとぼとぼ帰ってきた。私は初めて気がついた。…あの子の顔が、絶望一色に染まっていたの。」
口元に手を持ってきて、親失格よね、と佐々の母親は自嘲気味に呟く。
「それで、大体の事情を聞いて…。あの子、私の足元で膝を折って大泣きした。”みんな自分が壊したんだ”って。就職先が見つからない焦りが、バンドメンバーにモロに集中してしまったみたい。あの子、根は素直だから。メンバーの子も、いつかは正気に戻るはずって皆信じてついてきてくれたみたいね。」
メンバーの対応は頷ける。…真実を聞かされた白摩さえ、あの幼馴染のギターを撫でる手が人を殴るなんて未だに信じられなかった。
「少しして、頭が冷えたらギター君に謝りに行くって、あの子は言っていたの。」
その頃にはきっと帰ってくるわ、と佐々の母親は寛容に笑う。…佐々の母親は、息子が頭を抱えるほどマイペースな女性だ。
「帰ってくるまで、春太君はちょっと寂しいかもしれないけど、待ってやってね。」
柔らかい笑顔で告げられ、白摩は思考が半ば停止した頭を縦に振る他ない…。
『…そ、そりゃ優秀なミチにはわかんないだろうさ。』
『…どうせ、アレだろ??俺に気を遣って報告していないだけで、佐々は就職先なんてとっくに決まっているんだろ!?』
『年中引きこもりの俺みたいにさ。将来がお先真っ暗で、不安でたまらない奴の気持ちなんかわかりゃしないだろ??』
『憐れむって、つまりはお高いところにいる人しかできない芸当だよね??』
『…お前には、わかんねぇよ。』
何もわかっていないのは、自分の方だった。春先の冷たい風に吹かれながら、白摩は瞳を眇める。
(ミチがいない。)
胸にぽっかりと空いた穴は、穿たれた時は何も感じない。けれど、数分経過すると麻酔が切れたかの如くしくしくと痛み出す。
(…ミチが、俺の好きな人が、どこにもいない。)
白摩の足は勝手に動く。佐々の影を探して、街を彷徨う。二人でよく遊んだ近所の公園。幼稚園、小学校、中学校。進学先が別れた高校は佐々が通っていた方だけ足を運ぶ。
どこにもいないどころか、春休み真っ只中の園内や校舎には人っ子一人見当たらない。
大学には人気はあるものの、佐々の鱗片すら見つからない。軽音サークルに行こうか、とも考えたけれど先ほどの母親の話からして佐々を探すのに好意的な人物は見つかりそうにない。援助を頼むより以前の問題として、白摩は人見知りが激しく、初対面の他人とはうまく話せそうになかった。
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