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(…ミチ、ミチ、ミチ。)
今度は人気の多いところに行く、駅前、商店街…。佐々がよく行く場所にも足を運ぶ。図書館、楽器店…。足が棒のようになった昼下がり。結局白摩が行き着いたのは母親の入院している病院だった。
『どうしたらいいか、って…。おばさんに会いに行けばいいだけだろ。』
最後に会った時、幼馴染が望んだのは母子が再会することだった。
(もしかしたら、すんげぇ奇跡で、ババアの病室で俺を待っていてくれるんじゃ…。)
祈るような気持ちで、階段をのぼる。…エレベーターを待つ、時間がもどかしかった。
佐々から事前に聞いていた番号の病室に向かう。病室は、白摩と同じ個室だった。扉に手をかけて、思いっきり開く。
(いてくれ、ミチ!!)
扉の向こうには、ほっそりとした女性がベッドから半身を持ち上げ、窓の外を眺めていた。
一回り小さくなった身体。頬骨がくっきりと見て取れる顔。健康的とはいえない、青褪めた顔色。…白摩は声を失う。彼女が、自分の母親とは思えない、変貌ぶりに立ち尽くす他ない。
「…ババア。」
名前を呼んで、一歩進み出る。彼女が振り向く。双眸を静かに見開く。ゆっくりと顔を綻ばせ、微笑む。嗚呼、と白摩は短い息をつく。こんなになってしまったも、笑顔の暖かさは倒れる前と変わらない。
「ババア…。」
骨と肌だけしか残っていないような手を取って、握る。…折れそうなほど軽い手に、白摩はぐっと奥歯を噛み締める。
「ババア…。」
生きてくれ、と言いかけて、白摩は口を噤む。何度も自殺未遂を起こし、彼女を困らせた自分が言うのはあまりにも滑稽に思えた。
「ババア、倒れてんじゃねぇよ。」
困った末、口が勝手に動く。患者は弱々しく微笑んで、ごめんねぇと嗄れた声で呟く。ここ数日で、驚く程体内の力が衰えている。急速に生命力が病に冒されている。
「…ババア、ちゃんと飯食ってんのか??」
ぽつり、ぽつりと話し出す。自分自身に、白摩は驚いていた。…何だ、コレ。自分は佐々を探していたはずだ。こんなところで道草を食っている場合ではない。
「俺に飯食えってあれだけ言って、しつこく豚の飯毎晩部屋の前に置きやがって。」
そういえば、自分は殆ど母の手料理に手をつけず、放置していた。冷めた食事は、翌朝に、シンクの三角コーナーにぶちまけられているのが多かった。
「自分は、食わねぇって何だよ。本当、死ねよ。お前。」
悪態しかつかない自分に、母は弱々しくごめんねぇと繰り返す。
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